2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧
帚木105・106・107:(左馬頭の言葉続き)そのはじめの事、すきずきしくとも申し侍らむ」とて、近く居寄れば君も目覚まし給ふ。中将いみじく信じてつらづゑをつきて向かひ居給へり。法の師の、世のことわり説き聞かせむ所のここちするも、かつはをかしけれど、…
帚木102・103・104:(左馬頭の言葉続き)手を書きたるにも深き事はなくて、ここかしこの点ながに走り書き、そこはかとなく気色ばめるは、うち見るにかどかどしく、気色だちたれど、なほまことのすぢをこまやかに書きえたるは、うはべの筆消えて見ゆれど、今ひ…
帚木101:(左馬頭の言葉続き)世の常の山のたたずまひ、水の流れ、目に近き人の家居ありさま、げにと見え、なつかしくやはらいだるかたなどを、静かに描きまぜて、すくよかならぬ山の気色、木深く世ばなれてたたみなし、け近きまがきの中をば、その心しらひお…
帚木99・100:(左馬頭の言葉続き)また、ゑ所に上手おほかれど、墨がきに選ばれて次々にさらに劣り勝るけぢめ、ふとしも見え分かれず。かかれど、人の見及ばぬ蓬莱の山、荒海の怒れる魚(いほ)の姿、唐国の激しきけだものの形、目に見えぬ鬼の顔などの、おどろ…
帚木98:(左馬頭の言葉続き)大事として、まことにうるはしき人の調度の飾りとする定まれるやうあるものを、難なくし出づる事なむ、なほまことのものの上手は、さまことに見え分かれ侍る。 けれどもね、そういう臨時の作り物ではなくて、真に大事な品物つまり…
帚木94・95・96・97:馬の頭(左馬頭)、ものさだめの博士になりて、ひひらぎ居たり。中将はこのことはり聞き果てむと、心入れてあへしらひ居給へり。(左馬頭)「よろづの事によそへておぼせ。木の道のたくみの、よろづの物を心に任せて造り出すも、臨時のもて…
帚木93:(中将の言葉続き)ともかくもたがふべきふしあらむを、のどやかに見しのばむよりほかに、ます事あるまじかりけり」と言ひて、(中将の心中)「我が妹の姫君は、この定めにかなひ給へり」と思へば、君のうちねぶりて、言葉まぜ給はぬを、さうざうしく心…
帚木91・92:(中将)「さしあたりて、をかしとも哀れとも心にいらむ人の、頼もしげなき疑ひあらむこそ大事なるべけれ。我が心あやまちなくて見すぐさば、さしなほしてもなどか見ざらむと覚えたれど、それさしもあらじ。 そして次には中将が口を開いた。「さし…
帚木88・89・90:(左馬頭の言葉続き)余りむげにうちゆるべ、見放ちたるも、心安くらうたきやうなれど、おのづから軽き方にぞ覚え侍るべし。つながぬ舟の浮きたるためしもげにあやなし。さは侍らぬか」と言へば、中将うなづく。 といっても、あまり単純に夫を…
帚木86・87:(左馬頭の言葉続き)すべて、よろづの事なだらかに、怨ずべき事をば見知れるさまにほのめかし、恨むべからむふしをも憎からずかすめなさば、それにつけてあはれもまさりぬべし。多くは我が心も、見る人から収まりもすべし。 だから全ての事はひた…
帚木84・85:(左馬頭の言葉続き)また、なのめにうつろふ方あらむ人をうらみて、けしきばみそむかむ、はたおこがましかりなむ。心はうつろふかたありとも、見そめし心ざしいとほしく思はば、さるかたのよすがに思ひてもありぬべきに、さやうならむたぢろぎに…
帚木82・83:(左馬頭の言葉続き)絶えぬ宿世浅からで、尼にもなさで尋ねとりたらむも、やがてあひ添ひて、とあらむをりもかからむきざみをも、見過ぐしたらむ中にこそ、契り深くあはれならめ。我も人もうしろめたく心おかれじやは。 また、家出したけれど、な…
帚木79・80・81:(左馬頭の言葉続き)みづから額髪をかきさぐりて、あへなく心細ければ、うちひそみぬかし。しのぶれど涙こぼれそめぬれば、折々ごとにえ念じえず、悔しき事多かめるに、仏もなかなか心ぎたなしと見給ひつべし。濁りにしめるほどよりも、なま…
帚木77・78:(左馬頭の言葉続き)『いであな悲し、かくはたおぼしなりにけるよ』などやうに、あひ知れる人来(き)とぶらひ、ひたすらに憂しとも思ひ離れぬ男聞きつけて涙落とせば、使ふ人ふるごたちなど『君の御心はあはれなりけるものを。あたら御身を』など…
帚木75・76:(左馬頭の言葉続き)心深しや、など、ほめたてられて、あはれすすみぬれば、やがて尼になりぬかし。思ひ立つほどは、いと心すめるやうにて、世にかへり見すべくも思へらず。 そういう女は、家出したことについては、よくもここまでご決心なさった…
帚木72・73・74:(左馬頭の言葉続き)わらはに侍りし時、女房などの物語り読みしを聞きて、いと哀れに悲しく心深きかなと、涙をさへなむ落とし侍りし。今思ふには、いと軽々しく、ことさらびたる事なり。心ざし深からむ男をおきて、見る目の前に辛き事ありと…
帚木70・71:(左馬頭の言葉続き)うしろやすくのどけき所だに強くは、うはべのなさけは、おのづからもてつけつべきわざをや。艶に物恥じして、うらみ言ふべきことをも見知らぬさまにしのびて、うへはつれなくみさをづくり、心ひとつに思ひあまる時は、言はむ…
帚木66・67・68・69:(左馬頭)「今はただ品にもよらじ。かたちをばさらにも言はじ。いとくちをしく、ねぢけがましきおぼえだになくは、ただひとへにものまめやかに、静かなる心のおもむきならむよるべをぞ、つひの頼み所には思ひおくべかりける。あまりのゆ…
帚木65:(左馬頭の言葉続き)常は少しそばそばしく心づきなき人の、をりふしにつけて出でばえするやうもありかし」など、くまなきもの言ひも、いたくうち嘆く。 だから、普段は多少不愛想でとっつきが悪いような感じの女のほうが、いざ事がある時には、ぐっと…
帚木64:(左馬頭の言葉続き)げに、さし向かひて見む程は、さてもらうたき方に罪ゆるし見るべきを、立ち離れて、さるべき事をも言ひやり、をりふしにし出でむわざの、あだ事にもまめ事にも、我が心と思ひうる事なく、深きいたりなからむは、いと口惜しく、頼…
帚木62・63:(左馬頭の言葉続き)ただひたぶるに子めきて、やはらかならむ人を、とかくひきつくろひては、などかは見ざらむ。心もとなくとも、直し所あるここちすべし。 と、そういうことになると、結局一番良いのは、ただひたすらおっとりと子供っぽい女で、…
帚木61:(左馬頭の言葉続き)近くて見む人の聞きわき思ひ知るべからむに、語りも合はせばやと、うちもゑまれ、涙もさしぐみ、もしはあやなきおほやけはらだたしく心ひとつに思ひ余る事など多かるに、『何事ぞ』など、あはつかにさし仰ぎ居たらむは、いかがは…
帚木60:(左馬頭の言葉続き)事が中になのめなるまじき人の後見の方は、もののあはれ知りすぐし、はかなきついでの情あり、をかしきにすすめる方、なくてもよかるべしと見えたるに、またまめまめしきすぢを立てて、耳はさみがちに、美相なきいへとうじの、ひ…
帚木58・59:(左馬頭の言葉続き)なよびかに女しと見れば、あまり情にひきこめられて、とりなせばあだめく。これをはじめの難とすべし。 また、もう少しこう、なよなよっとした女っぽい色気のある娘もいますが、そういうのが良いかと思っていると、こんどはあ…
帚木57:(左馬頭の言葉続き)かたちきたなげなく若やかなるほどの、おのがじしは塵もつかじと身をもてなし、文を書けどおほどかに言選りをし、墨つきほのかに心もとなく思はせつつ、またさやかにも見てしがなと、すべなく待たせ、わづかなる声聞くばかり言い…
帚木55・56:(左馬頭の言葉続き)されど、なにか、世のありさまを見給へ集むるままに、心に及ばずいとゆゆしき事もなしや。君だちの上なき御選びには、ましていかばかりの人かはたらひ給はむ。 あーあ、しかしです、実際のところを私が拝見しておりますとね、…
帚木54:(左馬頭の言葉続き)必ずしも我が思ふにかなはねど、見そめつる契りばかりを棄て難く思ひとまる人は、ものまめやかなりと見え、さてたもたるる女のためにも心にくくおしはからるるなり。 考えてみれば結婚なんてものはそうそう自分の思ったとうりには…
帚木53:(左馬頭の言葉続き)とあればかかり、あふさきるさにて、なのめにさてもありぬべき人の少なきを、すきずきしき心のすさびにて、人のありさまをあまた見あはせむの好みならねど、ひとへに思ひ定むべきよるべとすばかりに、同じくは我が力いりをし、な…
帚木51・52:(左馬頭の言葉続き)されど、かしこしとても一人二人世の中をまつりごちしるべきならねば、かみはしもに助けられ、下は上になびきて、こと広きにゆづろふらむ。せばき家の内のあるじとすべき人ひとりを思ひめぐらすに、たらはであしかるべき大事…
帚木49・50:さまざまの人のうへどもを語り合はせつつ、(左馬頭)「おほかたの世につけて見るにはとがなきも、我がものとうち頼むべきをえらぬに、多かる中にもえなむ思ひ定むまじかりける。をのこの、おほやけに仕うまつり、はかばかしき世のかためとなるべ…