オリジナル勉強風呂Gu 第359回 2022.3/12

帚木180:(式部の言葉続き)かの馬の頭の申し給へるやうに、おほやけごとをも言ひ合はせ、わたくしざまの世に住まふべき心おきてを思ひめぐらさむかたもいたり深く、(ざえ)の際(きは)、なまなまの博士はづかしく、すべて口あかすべくなむ侍らざりし。

さきほど左馬頭殿が言われたように、この女は妻としては大変頼りになるところがある者で、公の事を相談する時も、また私生活上の世俗のあれこれ心がけを巡らすという事でも、いたって思慮深くて、その学識は生半可な博士などは裸足で逃げ出そうかというほどで、公私万端にわたって何事も、こっちが口を出すことすら難しいというくらいの偉い女でございました。

N君:指食い女・琴女・失踪女とはまた違った面白い話になりそうです。

As Lord Samanokami mentioned, she was very reliable woman as a regal wife.  She was familiar with everything whenever I might consult her about both official and private matters.  She was so discreet that a half-baked expert should be embarrassed at her profuse knowledge.  At any rate, she was wise to the extent which men can hardly intervene in her all conduct.

S先生:今日のところは短いですが色々と大切なことがあります。第1文の mention には目的語が見当たらないので、N君は自動詞として使っているのでしょうが、「そもそも mention には自動詞がない」ので、As Lord Samanokami said, とするのが自然で良いと思います。たしかに、as above mentioned「前述の如く」、as has been mentioned「既に述べたように」という言い方はあるのですが、このような場合には主語がない、つまり、as は接続詞ではなくて関係代名詞なのです。この議論は非常に難しいのでちゃんと知りたいなら、中原道喜先生の新英文読解法76~79ページをじっくり読んでください。第3文の a half-baked expert「生半可な達人」はなかなか工夫した言い方で、とても良かったのですが、expert とするより素直に scholar にするほうが良いでしょう。第4文の to the extent which ~ 以下の節には、men という主語があり、all her conduct という目的語もあるので、which が宙ぶらりんになっています。どうしても to the extent を使いたいなら、格を必要とする関係代名詞which ではなく、接続詞that を用いるべきです。私としては to the extent を使わずに、At any rate, she was so wise that no one could intervene in anything she did , whether it was official or private. くらいにしたいです。今回は、接続詞と関係代名詞の違いについて考えるきっかけを与えてくれる題材が、偶然にもふたつ並んで登場しました。

As Lord Sama-no-Kami said, she was dependable enough for a wife.  When I consulted with her about things public or private, she never failed to give me discreet answers.  As for her scholarship, she was so intelligent that no ordinary scholar was a match for her.  Nobody was able to argue with her about anything, whether it was official or private.

今回は as(前置詞・関係代名詞・接続詞) の問題がクローズアップされましたが、これは大切な事なので近いうちに場所をとってしっかりまとめておくつもりです。さて今日の英作談義では「強制力の強さ」について語ってみましょう。助動詞で言うと、must > have to > had better > ought to > should の順に強制力が強いと言われています。生徒は should「~すべきである」、had better「~したほうがよい」と思っているようですが、そういう思い込みを改める必要があります。助動詞以外では be expected to do > be supposed to do がありますね。You are supposed to come tomorrow.「来て下さい」は穏やかですが、You are expected to come tomorrow.「来なければいけません」はかなり強制力がありますね。日本語にしてしまうと違いがわかりにくくなってしまうのですが、英文のニュアンスを感じることが大切です。

 

オリジナル勉強風呂Gu 第358回 2022.3/11

帚木178・179:(中将)「式部がところにぞ、気色ある事はあらむ、少しづつ語り申せ」と責めらる。(式部)「しもがしもの中には、なでふ事か聞こしめし所侍らむ」と言へど、頭の君(=頭中将=中将)まめやかに「おそし」と責め給へば、(式部)「なにごとをとり申さむ」と思ひめぐらすに、(式部)「まだ文章の生に侍りし時、かしこき女のためしをなむ見給へし。

「おっと、式部、君のところにも、さぞ、一風毛色の変わった恋の話があるだろう、それを少しずつ話してくれ」と、中将は黙っていた藤式部を責め立てた。式部は「いやいや、私のような下々の者の所には、お聞かせするような面白い話など、ろくにありませんよ」などと言ってしり込みするのだが、中将は許さない。「遅いぞ、サッサと話せよ」と催促するので、式部は、さて何を話そうかとしばし思案顔あったが、ようやく話し始めた。「あれはまだ私が文章道の学生だった頃のことなのですが、えらく利発な女がいましてね。

N君:左馬頭の指食い女・見せびらかしの琴女、中将の失踪女、に続いて、式部の利発女の話が始まりました。

"Well, Shikibu, why don't you tell us one or two interesting tales about your lovers ?  You had better present them one after another."  Chujo urged Tou-Shikibu to speak because he had kept silent for a long while.  Shikibu replied hesitatingly, "Oh,no. There are few interesting stories for a low rank officer like me."  But Chujo didn't forgive him.  "Hurry up.  You must make a confession."  Being  sored by Chujo's encouragement, Shikibu was barely inclined to speak something.  He was casting about for an appropriate story.  "O.K.  I will tell you a story about an extremely wise woman whom I met in my school days.  I was so called a Monjosei at a Monjo-school.

S先生:第2文の present them に違和感ありです。present は「提出する、提示する」の意であり、ここにはそぐわない気がします。はっきりと confide your secrets とするほうが良いと思います。それに続く副詞句 one after another「順々に」もここではちょっと違うでしょう。You had better confide your secrets. で一旦ピリオドを打って、Only a few will do.「少しでいいから」としてみてはどうでしょうか。第10文は、受け身の分詞構文から始まっていますが、冒頭の Being は通常省略されるので、ここでも除外しましょう。Being を除外した後に、Sored を持ってくるより、Instigated 「非難にそそのかされて」を使ったほうが良いでしょう。とすると、その次の by Chujo's encouragement の encouragement はそぐわなくなるので、by Chujo となります。このほうが簡潔で良いです。第11文は、Shikibu was barely inclined to speak something.「式部はかろうじて何か話す気になった」との作文ですが、原文の伝える意とは違うと思います。Shikibu was too perplexed to know what to talk about.「狼狽して何を話してよいか分からなかった」としてみてはどうでしょうか。第15文の不定冠詞に異議あり、です。文章生Monjosei という日本語には、単数であっても a や an を付けないし、複数であっても s や es を付けません。だからここは I was so called Monjosei でよいのです。たとえば、畳Tatami という日本語には不定冠詞は付かないし、複数形にもなりません。ただし、tatami mat になると話は別で、a tatami mat とか tatami mats とかになります。最後の at a Monjo-school ですが、学校名に冠詞は不要です。今回は大きなミスはなかったものの、細かいことが色々ありましたね。少しづつ改善して、英語らしい英語を書くようにしていきましょう。

”Well, Shikibu, you must have strange love stories.  Why don't you tell us about them ?"  Chujo urged Shikibu, a man of few words, to express himself.  ”Oh, no, a lower man like me has no interesting story to tell you about,"  said Shikibu hegitatingly.  But Chujo obstinatedly demanded, "Hurry up !  Answer Quickly !"  Shikibu was at a loss what to talk about.  After pondering for a while, he said, "Now let me talk about my affair.  It was when I was a student that I met a very smart lady.

N君:先生の作文の最後のところに出て来る a smart lady は「スタイルの良い女性」かと思ったら、「頭の良い女性」という意味でした。スマホもそういう意味なんですね。日本語英語の怖いところです。

S先生:wise「賢明な、思慮分別のある」、intelligent「知能が高くて物分かりの良い」、clever「器用かつ利口な」。この clever をもう少し口語的にして、いくぶん foxy な要素を加えたのが smart です。スマホのみならず、たとえば建設業界には smart building という言葉があります。ただのビルではなく、Wifi・照明・空調・エレベーター・水回り・清掃などの情報が一括管理されて手間のかからない「おりこうさんビル」というところでしょうか。

オリジナル勉強風呂Gu 第357回 2022.3/10

帚木176・177:(中将の言葉続き)このさまざまのよき限りを取り具し、難ずべきくさはひまぜぬ人は、いづこにかはあらむ。吉祥天女を思ひかけむとすれば、ほふけづき、くすしからむこそ、またわびしかりぬべけれ」とて、皆笑ひぬ。

そこで、これらの女たちから良い所だけを取り出して、欠点のをまるでなくしてしまう、そんな女性は世界のどこにおりましょうか。いっそ吉祥天女みたいなことになりますが、まさかそんなものを妻にしては、ずいぶんと線香臭くて融通の利かぬことであろうと、これまた困りものですね」と言ったもんだから、皆笑った。

N君:How on earth can I make a faultless woman by extracting virtues alone from these women ?   If I could get such an ideal woman, she would be a woman like the Kisshoten, a female Buddha.  If I should marry her, I would be fed up with the aweful smell from an incense stick.  What a mess !"  Chujo joked and the other three men laughed again.

S先生:今回は上出来でした。第1文に出て来た virtue は「美徳」の意味の時は不可算ですが、「長所」の意味の時は可算名詞ですから、ここでも複数形を使ったのは正解でした。第3文仮定法過去の節のなかの should は「もし万一そんな女と結婚しちまったら」という感じがよく出ています。

Where in the world can you find a woman only with good points, no bad points at all ?  It might be best to choose a woman like a Lady of Felicity, but if you should get married to her, you will find her too pious to deal with.  She is sure to be a nuisance to you."  The others burst into laughter again to hear that.

N君:知らなかった単語を調べておきます。felicity「慶事」、pious「信心深い」。このほか、be sure to be ~「~にちがいない、きっと~だ」や、burst into laughter「ドッと笑う」にも気をつけておきたいです。

S先生:今日は早くおわったので英作談義をやりましょう。今回は「使役動詞 make, let, have(get) の違い」について語ってみます。He made me drive his car.「私は嫌だったんだが、彼が運転しろと言うので運転した」のように、make は強制気味な意味になるのに対して、He let me drive his car.「私が運転したいなあと頼んだら、彼はいいよと許してくれた」のように、let は許可的な意味になります。さらに He had me drive his car.「彼は私に頼んで車を運転してもらった」のように、かなり謙虚な頼み事といった意味になります。had のかわりに got が使われることが希にありますので注意しておくべき言い方です。今回の和訳はやや大げさで不自然に感じるかもしれませんが、使役動詞の区別を明確にしておく、という意味があります。日常生活でも、物事の区別をはっきりつけて、メリハリのある判断をしていきたいものですね。

オリジナル勉強風呂Gu 第356回 2022.3/9

帚木172・173・174・175:(中将の言葉続き)されば、かのさがなものも、思ひ出であるかたに忘れ難けれど、さしあたりて見むには、わずらはしく、よくせずは、あきたきこともありなむや。琴の音すすめりけむかどかどしさも、すきたる罪重かるべし。この心もとなきも、疑ひ添ふべければ、いづれとつひに思ひ定めずなりぬるこそ。世の中や、ただかくこそ、とりどりに、くらべぐるしかるべき。

されば左馬頭殿のお話に出て来たあの指食いの乱暴者なんぞも、思い出の種としては忘れ難いかもしれませんが、さあて一緒に暮らすとなったら、煩わしいことばかりで、どうかすれば、すっかり嫌気がさすなんていうことになりましょう。またその、琴の音を洒落て聞かせたという女ね、それだって、色好みの罪は軽くありません。そこから割り出してみますと、今私がお話したこの頼りない女なんかも、もしかしたら、他に男でもできて出奔したのかもしれない、という疑いもありますからね。いづれの女が良いのか悪いのか、さてどうにも定め難いところがありますね。思うに、男女の仲なんてものは、すべてこの調子で、十人十色、一長一短、比べて考えるのも意味がない、というものではありませんかねえ。

N君:中将が話をまとめに入りました。頷けるまとめですね。

The woman who appeared in Samanokami's tale and bit his finger may be impressive as a piece of memory.  But if you must live with her, you may be annoyed because she will do nothing but nuisance.  And the woman who took a showy attitude of playing the koto also in his tale has a considerable sin against the public order.  When I think of the unreliable woman again in my tale referring to the two examples in his tale, it is possible that she ran away with another man instead of me.  Things having reached this point, we cannot decide definitely which woman is good or bad.  The relationships between man and woman, I guess, have defferent forms.  So many couples, so many forms.  It will make little sense to compare this couple with that.

S先生:第3文主部の関係代名詞節はこれでもよいですが、少し硬いので、who played the koto beautifully くらいに簡潔に書いても良いと思います。また第3文述部も「社会秩序に対する罪」とのことですが、大仰です。ここは should be blamed for her excessive sensuality くらいでどうでしょうか。第4文の in my tale と instead of me は、ややくどい感じがするので、思い切って除外しましょう。第5文冒頭の独立分詞構文「ことここに至っては」「以上に鑑みて」は感じが出ていますが省略しようと思えばできないこともないですね。第7文の So many couples, so many forms.「人それぞれ」は、So many men, so many minds. でも良いでしょう。格言みたいでいい感じです。

So it might be difficult for you to forget the woman who bit Sama-no-Kami's finger.  She would remain in your memory, I suppose.  But if you should live with her, you will find her burdensome and be fed up with her.  And I think that even the woman who played the koto decently should be blamed for her sensuality.  Judging from this, it cannot be denied that the unreliable woman whom I told you about just now might have run away with her love.  You can hardly decide which woman is better or worse.  In my opinion, since the relations between men and women are not simple, you will find various kinds of couples with both good points and bad points.  It seems no use to compare one with another.

オリジナル勉強風呂Gu 第355回 2022.3/8

帚木167・168・169・170・171:(中将の言葉続き):かの撫子(なでしこ)のらうたく侍りしかば、いかで尋ねむと思ひ給ふるを、今もこそ聞きつけ侍ら。これこそ宣(のたま)へるはかなきためしなめれ。つれなくて、辛しと思ひけるも知らで、あはれ絶えざりしも、やくなき片思ひなりけり。今やうやう忘れ行くきはに、かれはた、しも思ひ離れ、折々人やりならぬ胸焦がるる夕べもあらむとおぼえ侍り。これなむ、たもつまじく、頼もしげなきかたなりける。

私と彼女の間に生まれた娘はちょうど可愛い盛りで、なんとかして探り出して面倒を見てやりたいとは思っているんですが、いまだに消息をつかむことができません。この女こそ、さっき左馬頭殿がおっしゃっていた『わざと家出などして身を隠す頼りない女』の一例ではありますまいか。彼女はうわべだけは平気を装っていましたが、内心はよほど辛いと思っていたのでしょう。こっちはそんな事ともつゆ知らず、ただ能天気に構えていたのは、今から思えば、まったくやくたいもない私の片思いでございました。今頃になって私もようやく少し忘れることができるようになりましたが、でも彼女の方では、今でも私のことを思い切ることができずに、折りにふれ、誰のせいでもない、自分の軽はずみな失踪のせいでこんなことになってしまって、、、と思って、人恋しい夕刻に胸を焦がしているようなこともあるかもしれません。まったくこれこそは、長続きのできない、頼りにならぬ女の典型かもしれませんね。私が愚かな女だと言ったのは、こういう訳なんです。

N君:The daughter I had her give birth to may be in the prime of prettiness.  Although I am committing myself to searching for them, I cannot get a piece of information at this moment.  This may be the very example of a woman Samanokami pointed out a little while ago as one who is unreliable enough to run away from home and conceal herself on purpose.  Although having pretended to keep a superficial coolness, she must have felt helpless in her mind.  Having been unaware of her grief, I continued to love her innocently.  Now I finally understood that my childish behavior was indeed an useless one-sided love for her.  Nowadays I can barely put her out of my consciousness, but she may be unable to forget me.  She may regret her thoughtless disappearance having led her to a mess.  She may blame herself for the dispute and be at a loss what to do when she feels lonely in evenings.  She may be the model of an unreliable woman who is unable to be on a good terms with her man.  This is because I said she was thoughtless.

S先生:全体的にまずまずですが、3か所ほど指摘しておきます。第6文の an useless one-sided love ですが、ここの不定冠詞は an ではなくて a です。useless の冒頭部分の発音は母音ではなく子音です。辞書を引いて確かめておいて下さい。大昔の大学入試問題に「間違いがあれば正せ」というのがあって、4~5文から成る短い文章が出て、その中に an UFO という一語がありました。確かにちゃんと言えば unknown flying object ですから、unknown の冒頭の発音は母音であって、an unknown flying object でよいのですが、略語「ユーフォ―」になった途端に、冒頭の発音は子音になってしまうため、a UFO が正しいのです。こういうクイズみたいな問題を出してよいのかと、当時話題になったものです。第9文の後半部分は be動詞の補語である at a loss what to do に続けてwhen節が来ているところが気に入りません。こういう所は、for the dispute の後を一旦カンマで区切って、and を除外し、be at a loss what to do とし、ここに and をもってきて、when she feels ではなくて feel にすれば良いと思います。A, B and C という構成にするのです。第9文全体を書き直すと、She may blame herself for the dispute, be at a loss what to do and feel lonely in evening. となります。このように変えることで、読み手の脳に内容がスッと入ってきます。作文する時は「自分がこう書きたい」ではなくて、「こう書いたら読み手が読みやすいか、それとも読み難いか」と考えることが大切です。第10文の be on good terms with ~ は良かったのですが、おそらく不注意のせいで、good の前に不定冠詞が入ってしまいました。terms なので不定冠詞が来るはずもありませんね。作文し終わったら必ず読み返して、ケアレスミスをなくすように努めて下さい。ちなみに term は多義語で、単数・複数で色々な意味がありますから、必ず辞書を引いて例文を書き抜いておくこと。

A baby girl born to us is in the height of prettiness.  Though I am trying to look for them, I still cannot find where they are.  As Sama-no-Kami said, she is just living proof of 'an unreliable woman who deliberately runs away to hide herself.'  She pretended to be calm outwardly, but she must have been very distressed inwardly.  Not knowing at all what a painful situation she was in, I kept on thinking of her imprudently.  Now I realize what a stupid person I was to love her one-sidedly.  It is not until recently that I came not to think of her, but she might still not be able to forget me.  Probably she might think it was all due to her thoughtless disappearance that she was put in such a painful situation.  And she might madly miss me in the evening.  She may be a type of a woman you cannot rely on for long.  This is why I said that she was a silly woman.

N君:大修館の辞書で term を調べました。 Her term of office expired.「任期は終わった」。mid-term examination「中間試験」。terms of surrender「降伏条件」。legal terms「法律用語」。I am in bad terms with him.「彼と仲が悪い」。Let's think about the matter in terms of economics.「その問題を経済学の観点から考えてみよう」。話は変わりますがS先生の第3文 she is just living proof of ~ ですが、just の後に不定冠詞が要りそうな気がしますがいかがですか。

S先生:just a living proof でよさそうに見えますよね。しかし慣用的にここは無冠詞になっているそうです。何度も言いますが「英語で最も難しいのは冠詞」です。

 

オリジナル勉強風呂Gu 第354回 2022.3/7

帚木164・165・166:(中将の言葉続き):まだ世にあらば、はかなき世にぞさすらふらむ。あはれと思ひし程に、わづらはしげに思ひまどはす気色見えましかば、かくもあくがらさざらまし。こよなきとだえおかず、さるものにしなして、ながく見るやうも侍りなまし

まだどこかで生きているなら、かわいそうに、きっとさぞ辛い思いをしてさまよっているんだろうな。私があいつを可愛がっていた頃、もっとわずらわしいほどにまとわりついたりする様子が見えたとしたら、私もいくらかは彼女の苦しみを察していたかもしれないし、こんな悲しい目には遭わせずに済んだでしょう。で、もっと、キチンキチンと通って行って、しかるべき妻の一人として長く面倒を見てやるということだってできたでしょうに、、、。

N君:中将の後悔の言葉が続いています。

Supposing that she is still alive somewhere, she must be wandering from place to place in distress.  When I was on friendly terms with her, if she looked eagar to cling to my legs,  I might have guessed a part of her grief.  If I had been more careful about her, I might have protected her from having such a bitter experience.  If I had visited her more often, and looked after her as one of my wives for a long while、、、.

S先生:第2文では、when節とif節が夫々独立した副詞節になっているわけですが、感心しません。if節を主節最後尾の grief の後に置けば落ち着くでしょう。あるいは、when以下を if節最後尾の後に続けてif節の一部とする方法もあるでしょう。とにかく両者を並列にするのはいけません。それから if節の中味「彼女が熱心に私の脚にまとわりつこうとしているように見える」は、あまりにも原文にひっぱられた英訳で、読んだ人は一瞬「どういう意味?」と思うでしょうね。時制も仮定法過去完了を使う方がよいので、たとえば、if she had hung me about, くらいでどうでしょうか。この about は前置詞ではなく副詞で、around とほぼ同じ意味です。結局第2文は、When I was on friendly terms with her, I might have guessed a part of her grief if she had hung me about. となります。このようにやっても、なんとなく回りくどい感じは抜けきれないが、N君のオリジナルよりはいくぶんマシになります。

If she were still alive somewhere, she would be straying about here and there deeply distressed.  I cannot but feel sorry for her.  If she had followed me about persistently at the time I loved her, I might somewhat have noticed her distress without putting her in such a sad situation.  If I had visited her more regularly, I could have treated her with more love as one of my wives for a long time.

今日は早めに終わったので英作談義をやります。「seem と appear の違い」について語ってみましょう。It appears that he quit the job.  と、It seems that he quit the job. はほとんど同じですがちょっと違います。appear のほうは「客観的・外見的」なので、話者は「彼が上司ともめた」とか「彼の身なりがみすぼらしい」などの情報を持っていて、それをもとに判断している、という感じが伝わってきます。それに比べて seem のほうは「主観的・情緒的」なので、話者は何もちゃんとした判断基準を持っていないけれども、なんとなくそんな感じを持っている、という意味になります。ここから脱線して、話のテーマが変わってくるのですが、もう少しお付き合い願います。「彼は仕事を辞めたらしい」と言いたい時に、I hear (that) he quit the job. と作文する人もいるでしょうし、それで何の問題もないのですが、まれに、見る聞く動詞+目的格+原形不定詞 を使って、I heard him quit the job. のような作文をする生徒がいます。この文をそのまま訳すと「彼が仕事を辞める音を聞いた」となってしまうので、こういう文はあり得ないのです。ちなみに quit-quit-quit なので、前者は過去形、後者は原形不定詞です。さらに脱線して likely について考えてみましょう。「likely は未来を表す」ので、He is likely to quit the job.「彼はなんだか仕事を辞めそうだ」はあり得るとしても、He is likely to have quit the job. は不自然です。最後に副詞apparently「見たところ聞いたところによるとどうも~らしくて」は 、It appears that ~ と同様に「ある程度の客観性を持った予想」の時に使われます。以上見て来たように「どうも~らしい」という言い方にもいろいろなことが潜んでいますね。

オリジナル勉強風呂Gu 第353回 2022.3/6

帚木163:(中将の言葉続き)涙をもらし落としても、いと恥づかしくつつましげにまぎらはし隠して、つらきをも思ひ知りけりと見えむは、わりなく苦しきものと思ひたりしかば、心安くて、また、とだえ置き侍りし程に、跡もなくこそかきけちて失せにしか

彼女は涙を漏らすことはありましたよ。しかしね、私の目に触れるのを恥ずかしがってか、涙を見られぬようにごまかして隠してしまうというような調子でした。彼女としては私を薄情な男だと思っていただろうことは多分間違いないのですが、そういう本心を私に気取られないようにと、必死に包み隠しているふしがありました。恨みがましい気持ちを持っていることを私に知られる事自体が、彼女にとっては何より辛いことだったのでしょう、今思いますにはね。しかしそれは後になって分かったことであって、その時の私には、彼女の苦しみなんかちっとも分からなかった。それでまあ、彼女のほうで心中を知られたくないと思っているんなら、あまり余計な詮索はせずに、グッと気安く考えておくことにしたんです。むろん、妻がひどい当てこすりをしているなんて知る由もなかったわけだしね。で、また、ずいぶん長く行かずに放っておいたところ、いつの間にか跡形もなく失踪してしまった、というわけなんです。

N君:Actually I sometimes saw her shedding tears, but she seemed to try not to be seen probably because being caught in tears would make her embarrased.  It might be true that she regarded me as a cold-hearted man, but she was apparently keen to keep her real thought secret.  It must have been more painful than anything for her that I might got aware of her ill will toward me, though I have recently been able to guess her mind.  Never could I understand her grief then.  In those days I made it a rule to keep my nose out of her condition and behave easily, because she apparently wanted to veil her real heart.  Far from noticing my wife's cruel treatment to her, I left her alone for a while.  At last she ran away somewhere without any trace before I realized it.

S先生:第1文 because節の中味がいけません。「涙を流しているところを見咎められたら恥ずかしいから」というふうにN君は作文していますが、これは理由になっていません。理由はたとえば、she was such a shy lady「恥ずかしがり屋だから」というようなことになるでしょう。第2文と第5文に apparently「見たところ聞いたところによるとどうも~のようで」が出ました。これは難しい副詞ですが上手に使うことができました。第4文では Never を文頭に出して強調したためにその後に語順変化が発生していますね。これも良く出来ました。第5文主節では、make it a rule to do および keep one's nose out of ~ を適切に使うことができたのはとても良かったのですが、最後の her condition がいけません。ここは her だけにして condition を除外しましょう。第6文の Far from+動名詞 を使った副詞句はいい感じです。第7文の before I realized it. は「私が気付く前に」というよりも、もしも和訳問題として出題されたなら「私が気付かないうちに」という具合に否定文で訳して下さい。細かいことですが、こなれた和訳を作る際の一つのやり方ですし、逆にこのような否定形の和文を英訳する時に before を上手に使うことを考えることもできますね。京大の長い英作文でも役に立つと思います。

Needless to say, she sometimes shed tears.  But probably she was so shy that she tried not to show them.  She must have thought that I was a cold-hearted man.  Yet she seemed to hide her real mind.  Now I suppose that it was most trying for her to let me perceive that she had a grudge against me.  But it was not until much later that I knew what an agony she was in.  And I thought that if she did not want me to know her feelings, I should be not too inquisitive about her.  So I stayed away from her for rather a long time.  One day I visited her to find that she had disappeared before I knew it.

N君:S先生の最後の文で I visited her to find that ~ は「訪ねてみたらなんと~だった」という驚きが含まれているように思いますが、どうでしょうか。

S先生:あからさまに be surprised at という訳ではないのですが、語感としてはN君が言ったとうりですね。こういうちょっとした所に気付けるようになったということは、N君の英語力は明らかに進歩しています。私も注文の付け甲斐があります。