2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧
桐壺36:(母)「むなしき御からを見る見る、なほおはするものと思ふがいとかひなければ、灰になり給はむを見奉りて、今はなき人とひたぶるに思ひなりなむ」と、さかしうのたまひつれど、車よりも落ちぬべうまどひ給へば、「さは思ひつかし」と、人々もてわづ…
桐壺35:かぎりあればれいの作法にをさめ奉るを、はは北の方、「同じけぶりのぼりなむ」と泣き焦れ給ひて、御送りの女房の車に乗り給ひて、をたぎといふところに、いといかめしうその作法したるに、おはし着きたるここちいかばかりかはありけむ。 いつまでも…
桐壺34:よろしきことにだに、かかる別れの悲しからぬはなきわざなるを、ましてあはれに言ふかひなし。 当り前の夫婦であってもこうした死別は悲しいものだが、まして若君を残しての母の死ということになると、帝は言うべき言葉を失った。 N君:Grief for th…
桐壺33:なにごとかあらむともおぼしたらず、さぶらふ人々の泣きまどひ、うへも御涙のひまなく流れおはしますを、あやしと見奉り給へるを。 幼い赤ん坊は何が起こっているのかもわからず、ただ側仕えの女房たちが泣きじゃくり父帝も絶えず涙を流していらっし…
桐壺32:御子はかくてもいと御覧ぜまほしけれど、かかるほどに侍ひ給ふ例なき事なれば、まかで給ひなむとす。 帝はこんな不慶事の最中でもずっとこの子を見ていたいと思ったが、実の母が亡くなったというのになお宮中にひきとどめておくというのは前例のない…
桐壺31:きこしめす御こころまどひ、なにごともおぼしめし分かれずこもりおはします。 悲報をお聞きになった帝はひどく狼狽して前後不覚となり御寝所へひきこもってしまった。 N君:The moment He heard the sad news, He was terribly dismayed, became hal…
桐壺30:御使ひの行きかふほどもなきに、なほいぶせさを限りなくのたまはせつるを、(更衣家人)「夜中うち過ぎるほどになむ、絶えはて給ひぬる」とて泣きさわげば、御使いもいとあへなくて帰り参りぬ。 帝は桐壺更衣の安否を心配して気が気でないとおっしゃっ…
桐壺29:御むね、つとふたがりて、つゆまどろまれず、明しかねさせ給ふ。 帝の胸はずっとふさがったままで、まんじりともせずに一夜を明かされた。 N君:Then He was in such a depressive state as if he had swallowed a lead ball that He could not slee…
桐壺28:てぐるまの宣旨などのたまはせても、また入らせ給ひてさらにえ許させ給はず、「限りあらむ道にもおくれ先立たじと契らせ給ひけるを、さりともうち捨ててはえ行きやらじ」とのたまはするを、 帝は桐壺更衣の退出に際して手車の許可を下されたのに、彼…
桐壺27:いとにほひやかに美しげなる人のいたう面やせて、いとあはれと物を思ひしみながら、ことに出でてもきこえやらず、あるかなきかに消え入りつつものし給ふを御覧ずるに、きしかた行く末おぼしめされず、よろづの事を泣く泣く契りのたまはすれど、御い…
桐壺26:限りあれば、さのみもえとどめさせ給はず、御覧じだに送らぬおぼつかなさをいふかひなく思ほさる。 命には限りというものがあるので、帝も彼女をそうそう強くひきとどめるわけにもいかず、退出の日に見送ってやることもできない不安な気持ちを、どう…
桐壺25:かかる折りにも、あるまじき恥じもこそ、と心づかひして、御子をばとどめ奉りてしのびてぞ出で給ふ。 こんな場合であっても、とんでもない恥づかしめを受けでもしたら大変だ、と懸念して、皇子を残したまま宮廷からこっそり退出した。 N君:Serious …
桐壺24:年頃つねのあつしさになり給へれば御めなれて、なほしばしこころみよ、とのみのたまはするに、日々に重り給ひてただ五六日(いつかむゆか)のほどにいと弱うなれば、母君なくなく奏してまかでさせ奉り給ふ。 ここ数年来桐壺更衣はずっと病気がちだった…
桐壺23:その年の夏、みやす所はかなき心地にわづらひて、まかでなむととし給ふを、いとまさらに許させ給はず。 その年の夏、若宮を生んで御息所となった桐壺は頼りなげな気持ちになって体調を崩し宮廷を退出して里さがりしようとしたが、彼女に愛着する帝は…
桐壺22:ものの心知り給ふ人は、かかる人も世に出でおはするものなりけりと、あさましきまで目をおどろかし給ふ。 世間の道理を知り尽くした方々は「こんな素晴らしい人が生まれてくるものなんだなあ」と驚きあきれるくらいに目をみはっていた。 N君:On the…
桐壺21:それにつけても世のそしりのみ多かれど、この御子のおよすげもておはする御かたち心ばへ有り難く珍しきまで見え給ふを、えそねみあへ給はず。 それにつけても一般的には批判的な声が多かったのだけれど、この第2皇子が次第に成長していく御器量や御…
桐壺20:この御子みつになり給ふ年、御はかま着のこと、一の宮の奉りしに劣らず、くらつかさおさめどのの物を尽くしていみじうせさせ給ふ。 さてこの二の君が3歳になった年の御袴着の儀式では、一の君のいでたちに勝るとも劣らず、内蔵寮・納殿に収蔵されて…
桐壺19:その恨みましてやらむかたなし。 追いやられたほうの恨みはやるかたなく晴らしようがない。 N君:The lady who was deprived of her room could not find a vent for her spleen. S先生:deprive+人+of+物「人から物を奪う」と考えておきましょう。…
桐壺18:事にふれてかず知らず苦しきことのみまされば、いといたう思いわびたるをいとどあはれと御覧じて、後涼殿にもとより侍ひ給ふ更衣の曹司を、ほかに移させ給いてうへつぼねに賜はす。 何かにつけて数え切れぬほどつらいことばかりが増えるのですっかり…
桐壺17:またある時には、えさらぬ馬道(めだう)の戸をさしこめ、こなたかなた心をあはせて、はしたなめわずらはせ給ふ時も多かり。 そしてまたある時には、必ず通らねばならぬ中廊下を歩いている時に、その前後の戸を 閉めてしまってあっちとこっちでしめし…
桐壺16:まうのぼり給ふにも、あまりうちしきる折々は、打ち橋渡殿のここかしこの道にあやしきわざをしつつ、御送り迎えの人のきぬの裾たへがたく、まさなき事もあり。 また反対に、帝のお召しに応じて桐壺更衣のほうから参上することもあり、それがあまりに…
桐壺15:あまたの御かたがたを過ぎさせ給ひて、ひまなき御まへ渡りに、人の御こころを尽くし給ふも、げにことわりと見えたり。 だから帝が桐壺更衣のもとへお渡りになる時には、たくさんの女御更衣たちの前を素通りしていくことになり、おまけにひっきりなし…
桐壺14:御つぼねは桐壺なり。 彼女の部屋は桐壺で、帝の御寝所からは最も遠い東北の隅にある別棟にあった。 N君:Her room called Kiritsubo was in a separated ward which was located in the north-eastern corner of the Palace and was most distant f…
桐壺13:かしこき御かげをば頼み聞こえながら、おとしめきずを求め給ふ人は多く、わが身はかよわくものはかなきありさまにて、なかなかなるもの思ひをぞし給ふ。 桐壺更衣は帝のありがたい御加護におすがりしてはいるものの、ことさらにあれやこれやとあげつ…
桐壺12:人よりさきにまゐり給ひて、やむごとなき御思ひなべてならず、御子たちなどもおはしませば、この御かたの御いさめのみぞなほわずらはしう、心苦しう思い聞こえさせ給ひける。 弘徽殿女御は人に先駆けて真っ先に入内し、お家柄ゆえ帝が大切になさるこ…