kn0617aaのブログ

文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第512回 2022.8/12

百人一首No.90 殷富門院大輔(いんぷもんいんのたいふ):見せばやな雄島のあまの袖だにも ぬれぞぬれし色はかはらず

私の袖をお見せしたいものです。いつも海水で濡れている雄島(おしま)の漁師の袖でさえ(色は不変だが)濡れてしまった。まして私の袖は血の涙で、濡れるだけではなくて色も変わってしまった。

N君:「だに」が出てくるともうお手上げという感じです。訳文を読むと、なるほどなあ、と思いますが、自分で訳すとなるとスンナリとはいきません。今回は「濡れぞ濡れし」の「」について調べました。第一印象としては「完了ぬ連用に」だろうな、と思ったのですが、本には格助詞と書いてありました。それがあまりにも意外だったので文法書で「に」を調べてみることにしました。「に」は5種類あるそうです。(1)「完了ぬ連用に」は連用形接続で、下には必ず「き・けり」が来ます。土佐日記に、舟こぞりて泣きけり、の用例がありました。(2)うっかりしがちなのが「断定なり連用に」です。これは体言や連体形に接続して、下には係助詞を伴って「にか・にや」の形で現れます。伊勢物語筒井筒に、異心(ことごころ)ありてかかるやあらむ、の用例がありました。(3)形容動詞連用形活用語尾の「に」があります。源氏物語若紫に、こなたはあらはや侍らむ、の用例がありました。形容動詞「あらはなり」の連用形「あらはに」を意識することが大切ですが、先ほどの、にや、と似た形なので紛らわしいです。(4)格助詞の「に」は体言・連体形に付きます。(5)接続助詞の「に」も連体形に付きます。格助詞と接続助詞の違いについてはゴチャゴチャ書かれていましたが、分かりませんでした。何はともあれ格助詞「に」が、本歌の「濡れぞ濡れし」のように連用形「濡れ」に付くことなどありえないので、この「に」を格助詞と書いてあるこの本は間違っているんじゃないの? と思いました。ところがよく読んでみると「格助詞に」には強意用法というものがあって、「連用形+に+連用形」という形で強意を表すそうです。そんな「に」は格助詞ではなくて副助詞だろ? と思ったのですが「副助詞に」は存在しません。仕方がないのでこのような特殊な形をした「格助詞に」を認めるしかありません。「高校生の古典文法」という本によれば、徒然草87段に、ひた斬り斬り落としつ、という用例があるとのことでした。今回「に」について調べてみて「古典文法って結構ややこしい」ということを知りました。

The sleeves of the fisherman at Ojima island never changes their colors though they are always wet with seawater.  But my sleeves have changed their color with my bloody tears owing to my deep love for you.  I would like to have you see these faded sleeves of mine.

S先生:ちょっと長過ぎますね。しかし第3文で軽い使役の have を使って「あなたに見てもらいたい」と作文したのはなかなか良かったです。

I would like to show you my red sleeves dyed with my bloody tears though the sleeves of the fishermen at Ojima Island never change their hues no matter how wet they are.

MP氏:How I'd to like to show him !  The fishermen's sleeves of Ojima are drenched indeed but even so they have not changed color like mine bathed in tears.

N君:MP氏の作品第1文の I would to like to do ですが would の次の to は不要だと思います。誤植でしょうか。第2文末の like mine bathed in tears はグッときます。

K先輩:前回は洛東の寺が出てきたので、今回はそれにちなんで私の好きな洛東散歩をご紹介します。春か秋の晴れの日に朝早くから出発します。スニーカーで行きましょう。汗をかくのでタオルは必携です。地下鉄東西線蹴上(けあげ)駅からスタートします。ウエスティン都ホテルの近くです。インクラインという名の引き込み線路跡があって春は桜がきれいです。その線路跡を北へ向かって歩いていくと南禅寺です。水路閣で写真を撮ったり三門に登ったりも良いですが、金地院という名の塔頭(たっちゅう、坊さんの宿舎)へ行ってみるのもよいと思います。江戸時代の初めに家康の政治顧問として活躍した「黒衣の宰相=金地院崇伝」ゆかりの塔頭で、天井に龍の絵があります。南禅寺から北へ歩くとすぐに永観堂です。見返り観音は優しい顔をしており女性好みでしょう。登り廊下も楽しいです。この辺で午前11時くらい。ここで少し西へ歩いて日の出うどんへ行きます。11時30分開店ですが、ちょっと早目にいかないと行列に並ぶ羽目になります。名物のカレーうどんをいただきましょう。腹ごしらえが済んだら再び東の山沿いに戻って、哲学の道を北へ向かって歩いていきます。松虫鈴虫事件の舞台となった安楽寺、隠れた紅葉名所の法然院、などをめぐってずんずん北へ歩くと室町8代将軍義政が隠棲した慈照寺銀閣です。四畳半の原型とも言える東求堂同仁斎がありますがここには入れません。国宝ですからね。昔はここの外にある縁側に腰掛けることができましたが今はダメになっています。枯山水の広い築山の細道は、昔はマムシに注意しながら歩いたものですが、今は広く整備されていて快適になっています。ここまで来ると午後3時。ちょっと疲れてきました。銀閣の参道を西へ降りていって白川通りまで行って、ここを渡って右折するとすぐ左にワールドコーヒーという名の喫茶店があります。ここは昭和の雰囲気漂う広めの明るい喫茶店で私は好きです。ここでお茶を飲んだら、今出川通りを西にズラズラ降りていって京都大学です。右は理学部、左は本学で時計台と大きな楠木があります。時計台の中にはラウンジや資料閲覧室があります。インクラインから京都大学までかなりの距離ですが、一日かけて遠足に行くつもりで楽しむのが良いでしょう。そんなにお金もかからないでしょう。夏は暑いし冬は寒いので春か秋なのですが、桜と紅葉の頃は人が多いので、ちょっとずらして天気の良い日に行くのがお薦めです。

少しだけ勉強の話もしましょう。今回N君は「に」について古典文法の面から検討しましたが、結局「原則からはずれた例外を見つけた」ということです。これは勉強をしていく上でとても大切なことです。まず、原則を知っていなければなりません。そして、その原則からはずれたもの=例外 を見た時に「変だな」と感じなければなりません。次に、どうなっているのかを周辺状況とともに調べます。すると、例外の例外たるゆえんが分かります。最終的に、ワンランク上の立場から全体を見渡すことができるようになります。でも1か月もすると忘れます。忘れますが、次に調べる時には一度通った道なので歩き易い。もう一度通ります。これを繰り返すと獣道のように道ができていき、記憶に定着します。勉強とはそういうものです。この作業を楽しいと感じることができるかどうかが勝負ですが、もし楽しくないなら、早々と勉強はあきらめて他の道へ進むのが良いでしょう。とにかく、ダラダラと時間を過ごすのが一番いけない、と私は思います。勉強でも勉強以外でも、興味をもって一生懸命やることが最も大切です。