古文研究法95-2 徒然草137段より:椎柴(しひしば)・白樫(しらがし)などの濡れたるやうなる葉の上にきらめきたるこそ、身にしみて、心あらむ友もがな、と都恋しう思(おぼ)ゆれ。すべて月花をばさのみ目にて見るものかは。春は家を立ち去らでも、月の夜は閨(ねや)のうちながらも思へるこそ、いとたのもしうをかしけれ。
椎の木や白樫などの濡れたように光沢のある葉の上に、月光がキラキラしている景色を見るとその素晴らしさが身にしみて、情趣を解する友人がいたらいいなあ、と都が恋しく思われる。いったい月や花をそんなに目ばかりで見るものなのかね。春は家から出掛けなくても、秋は月の夜に部屋に居るままでも月や花の情景を心に描くことこそが興趣に富んで面白いのだ。
N君:「きらめきたる」という連体形が曲者です。何がきらめいているのか? 前回からの続き具合をかんがえれば、月、です。だからここは「月がキラキラしている景色」です。「もがな」は願望の終助詞で「~だったらいいなあ」の意。「かは」は反語なので「~だろうか、イヤイヤそうじゃない」の意。「思へる」の「る」は自発の助動詞「る」連体形と考えられ「自然と心に浮かぶこと」の意。ここで問題なのは何が心に浮かぶのか? ということ。話のつながり具合から「月や花を実際に眼で見るのではなくて心で思うこと」となるのでしょう。
When you see the moon shining on the wet and glossy leaves of chinquapins or white oak trees, you are very impressed by the wonderful scene and long for a sensible friend in Kyoto. Why on earth should you appreciate the moon or flowers only by means of your eyes ? Although not stepping out from your house to enjoy flowers in spring, and although staying in your room on a moonlight night in autumn, you can imagine their beautiful features. The indirect appreciation is what I recommend.
S先生:全体の主語を「一般の you」でまとめたのは良かったです。このようにまとめるとグッと英語らしくなりますね。第3文前半の分詞構文にくっついた Although ふたつは堅苦しい感じがするので除外しましょう。これがなくても譲歩の分詞構文だと充分分かります。第4文の what I recommend もやや自己顕示的な感じがするので to be most recommended くらいに変えてみてはどうでしょうか。
You might be sick for Kyoto, wishing you had a friend who can appreciate how beautiful the moonlight is when it shines brightly on the wet and shiny leaves of chinquapins and white oaks. Do you think you should enjoy the moon and flowers only with your eyes ? You can imagine their glorious features in your mind even if you stay at home in spring and in your room on a moonlight night in autumn. Nothing will make you more interested and attracted than this way.
N君:先生の第1文の分詞構文で wishing you had a friend who ~ は仮定法過去?
S先生:今現在、情趣を解する友人は居ないわけですが、もし居るならばそういう友人を持ちたいものだ、と述べているのです。だからここは have ではなくて had になっています。ご指摘の通り「仮定法過去」になります。