kn0617aaのブログ

文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第700回 2023.2/15

古文研究法96-1 堤中納言物語より:ある君達(きんだち)に、忍びて通ふやありけむ、いと美しき児(ちご)さへ出で来ければ、あはれとは思ひ聞こえながら、厳しき片つ方(かたつかた)やありけむ、絶え間がちににてありけるほどに、思ひも忘れずいみじう慕ふが美しう、時々はある所に渡しなどするをも、否(いな)なども言はでありしを、程経て立ち寄りしかば、いと淋し気にて、珍しくや思ひけむ、かき撫(な)でつつ見ゐたりしを、立ち留まら事ありて出づるを、ならひにければ、例のいたう慕ふがあはれにおぼえて、暫(しば)し立ち止まりて、「さらば、いざよ」とて、かき抱(いだ)きて出でけるを、いと心苦しげに見送りて、前なる火取りを手まぐりにして、、、、

ある姫君に ー こっそりと通ってくるがあったのだろう ー 大変可愛らしい子供が生まれたので、男はこの子のことをいとおしいとは思ったものの、ー 口やかまし本妻があったのでしょう ー とかく足が向かわないような具合であったそのうちに、この子が父のことを忘れもせずについて回るのが可愛くて、男は時にはこの子を自宅へ連れて帰ったりしたのだが、姫君は「いけません」などとも言わないでいた。ちょっと間があいて男が姫君の家を訪ねてみるとこの子は大変淋しそうにしており、ー 男は久し振りと思ったのであろう ー この子を撫でながら相手になって世話していたのだが、男にはいつまでも居られない事情があって帰ろうとするのに対して、ー 習慣になっていたのだろうが ー この子は男についていこうとするので、男はそれが可愛そうになってしばらく立ち止まって「それなら、さあ一緒に」と言って、この子を抱いて出た。姫君はそれをたいそう辛そうに見送りながら、前にある香炉をいじりながら詠んだ歌、、、、

N君:古文解釈のいやらしい所がギュギュっと詰まった一節で、ここは腰を据えてやっていきます。難しい単語などもいろいろあるのですが、そういう各論的な事柄よりも「書かれない主語がどんどん変わっていく」「挿入句(筆者のつぶやき)が突然割り込んでくる」のような、現代文ではあまりお目にかからない言い方、に慣れることが重要です。まずは挿入句が4か所に見られるのでピックアップしてみます。第1は「忍びて通う人やありけむ」で、ここでは「この姫君のもとへこっそり通う男があったのだろう」と筆者がつぶやいています。第2は「厳しき片つ方やありけむ」で、「男には口やかましい本妻があったのだろう」と筆者がつぶやいています。第3は「珍しくや思ひけむ」で、「男はこの子と会うのが久し振りと思ったのだろう」と筆者がつぶやいています。第4は「ならひにければ」で、「子が男を追いかけてくるのはいつものことだったのだろうが」と筆者がつぶやいています。挿入句では過去推量「けむ」が使われて句点で区切られていることが多いようです。さて次はどうしても避けて通れない「書かれない主語の移り変わり」です。通常、主語=行動主体 が誰なのかを判断するには動詞にくっついた敬語の程度で判断できるのですが、本文では、男、子、姫君、の上下関係がほぼフラットであるために、敬語がほぼ使われておらず、したがって敬語による主語の識別ができません。したがって「文脈 context で判断するしかない」という、非常に厄介な状況になっています。では本文における主語の移り変わりを追いかけてみます。(1)「出で来ければ」=「この姫君に子が生まれたので」の主語は「子」。(2)「あはれとは思ひ聞こえながら」=「男はこの子のことをいとおしいとは思ったものの」の主語は「男」。「思ひ聞こゆ」には謙譲語「聞こゆ」が使われているので、「男にくらべて姫君および子のほうが身分が幾分高い、と筆者が判断している」ということが想定されます。しかし敬語が使われているのはここだけなので、その身分の違いはほとんどないと見て良いと考えられます。(3)「絶え間がちにてあるほどに」=「男の女性宅への訪問が絶え絶えになっていた際に」の主語は「男の訪問」です。(4)「思ひも忘れずいみじう慕う」=「子が父であるこの男のことを忘れずに慕う」の主語は「子」。(5)「~が美しう」と思ったのは「男」。それに続いて「あるところに渡しなどする」=「その子を本宅に連れてくる」の主語も「男」。(6)「否なども言はでありし」=「そういう男の行動をダメだとは言わなかった」の主語は「姫君」。(7)「程経て立ち寄りしかば」=「しばらくして女の家に立ち寄った」のは「男」。(8)「いと寂しげ」だったのは「子」。(9)「かき撫でつつ見ゐたりし」=「子を撫でながら相手をしてやった」のは「男」。続いて「え立ち留まらぬ事ありて出づる」=「のっぴきならぬ用事があって女の家を出た」のも「男」。(10)「例のいたう慕う」=「いつものように男のあとを追いかけた」のは「子」。(11)「あはれにおぼえて」=「その子の様子をみていとおしいと感じた」のは「男」。続いて「暫し立ち止まりて、さらば、いざよ、とてかき抱きていでける」=「家をでようとしたが立ち止まって、それならさあ一緒に行こう、と言って子を抱き上げた」のも「男」です。(12)「いと苦しげに見送りて前なる火取りを手まさぐりにして」=「男のその様子をたいそう辛そうに見送りながら香炉をいじった」のは「姫君」です。このように、全く書かれないままに主語3種類が入り乱れている、ことがわかりました。このような文章は現代文では考えられないことで、古文の特殊性が色濃く出た一節だと思います。さて総論が済んだところでようやく各論に入ります。「君達」は男とは限らず、ここでは身分の高い女性を意味しているので「姫君」となります。文章のしょっぱなで、この「君達」を、若い公家の男、と解釈してしまうと、あとをどう頑張っても正しい解釈になりません。恐ろしいことです。「忍びて通ふ人」の「人」はどう考えても「男」です。女が通うわけがありませんからね。ここまで正しく解釈できれば物語の大枠をつかむことができます。「厳しき片つ方」=「口うるさい本妻」は難しいので脚注として与えてほしいところです。「ある所に渡し」=「男が子を本宅に連れてきて」も難しいです。これも脚注が欲しい。「珍し」は「久し振り」、「見ゐたりし」は「世話をしていた」、「え ~ 否定語」は不可能を表しています。「さらば、いざよ」は「それならばさあ一緒に」です。徒然草に「いざ給へ」=「さあ一緒に行きましょう」というのがありました。この一節は「古文とはこういうものだ」というのを自覚するために、僕を含む古文難民の人たちが、是非とも解読しておかなければならない重要な一節だろうと思いました。

There was a certain lady of high rank who was in secret love with a man.  She bore a pretty baby boy.  Although he loved it, he refrained from visiting her out of the presence of his regal wife.  But the baby did not forget his father.  He followed him anywhere he went.  Feeling pity for the innocent boy, he sometimes brought the boy to his residence.  The lady did not say any complaints against his act contrary to common sense.  When he visited her house after a considerable interval, he found that the boy was cheerless.  Out of a guilty conscience for his long absence, he cherished the boy caressing the boy's hair frequently.  After a while, he could not but go back owing to unavoidable circumstances.  The boy, as he always did, tried to follow the man.  Touched by his pitiful appearance, he stopped to say, "Will you go with me ?  Yes, O.K."  and stepped out embracing the boy with his arms.  Seeing them off with a bitter expression and fiddling with an incense burner in front of her, she composed a poem :

S先生:全体的な構成はとても良いですが細かい指摘を何か所かしておきます。第3文前半 Although 節の中で使われた it は前文の a pretty baby boy を指していますが、ここは him でもOKです。たしかに「男」と「子」が混在してしまうのですが、この場合は he や him が誰を指すか明らかでしょう。第3文主節後半の out of the presence of his regal wife「本妻の存在があったので」はいかにも硬い言い方で感心しません。for fear of offending his nagging wife「彼のガミガミ妻を刺激してしまうのが怖くて」くらいに変えましょう。第6文主節の brought the boy 「その子を連れてきた」はいけません。bring は物に対して使うのであって、人に対して使う場合は take を使いたい。第7文後半の against his act contrary to common sense「常識に反した男の行動に対して」は説明的過ぎていけません。こういうところは簡潔に against him で充分だと思います。

A certain lady, whom some man often visited secretly, gave a birth to a cute baby.  He wanted to go to see him, he was obliged to refrain from doing so because his wife was a very nagging woman.  But the child remembered him very well as his father and followed him whenever he visited him.  How cute he was !  The man sometimes took him home, but the lady never said, "Please don't take my boy to your house."  When he visited her house after a while, he found that he had missed him very much.  Patting him tenderly, he played together with him.  But when he was going home for some reason, the boy would follow him as usual.  Feeling sorry for him, the man stopped and held him firmly in his arms, saying, "Now, let's go together."  Seeing them off painfully and fiddling with an incense burner in front of her, the lady chanted a poem :

N君:先生の第6文 he(子) had missed him(男) はどういう意味ですか?

S先生:子は男が居なくて寂しかった、の意味です。miss のこのような意味には注意が必要です。研究社の辞書には He wouldn't miss $50.「あいつなら50ドルくらいなんとも思わないだろう」という例文が出ていました。

N君:先生の第8文主節 the boy would follow him に使われた would はどういう意味ですか?

S先生:子はどうしても男についていこうとした、の意味で「強い意志」を表しています。「固執の will」ですね。こういうところを見抜けるようになっているということは、進歩の証です。