古文研究法75-2 源氏物語末摘花(すえつむはな):曇りがちに侍るめり。客人(まらうど)の来むとはべりつる、いとひ顔にもこそ。いま、心のどかにを。御格子まゐりなむ。
だいぶ曇っているようです。我が家にお客さんだ来る予定ですので(もし私が居ないと)会いたくないように受け取られても困ります。(末摘花さん、あなたとおしゃべりするのは)そのうちまたゆっくりとね。格子を降ろしましょうよ。
N君:源氏が浮名を流した数々の若くて美しい女性の中にあって、この末摘花という女性は「えっ? この人と?」というくらいに年増の不美人だったそうで、源氏もたまにはこういう女性と付き合うことで心を安定させていたのかもしれません。その末摘花の家を訪れていた大輔命婦(たいふのみょうぶ)が、早く帰りたくて末摘花に言ったセリフが、今回の文章です。暇乞いの口実を述べているわけです。「いとひ顔にもこそ」というのは「もし私が家に居ないと、その予定客に私が会いたくないと思われてしまうからマズイのよ」みたいな意味ですが、これは教えてもらわないと絶対に分かりません。「いま、心のどかにを」の「を」は間投助詞で「~ね」のような意味らしいです。「末摘花さん、あなたとのおしゃべりはまた今度ゆっくりとね」のような意味です。「御格子まゐる」は「格子を上げる」「格子を降ろす」どちらの意味もありうるらしくて僕には分かりませんが、ここでは命婦が帰り支度をしている場面ですから「格子を降ろしましょう」となります。
Taifu-no-Myobu tried to say good-bye to Suetsumuhana, "It seems to have been cloudy. I have to go back to my house, for I am to have a guest today. I am afraid the guest may mistake my absence for my dislike of him. I would like to see you some day to have plenty of time to chat. Now let the bamboo curtain hang down."
S先生:だいたい良いと思います。かなりこなれてきました。
Taifu-no-Myobu said to Suetsumuhana plausibly, "It has become rather cloudy, I am sorry I must say goodbye to you, for a guest is coming to visit me. If I am not at home, I am afraid he may think that I won't to see him. I hope I will see you again and have a good talk someday. Will you pull down the bamboo curtain ?
N君:plausible「もっともらしい」。some day と someday の違いについて研究社の辞書で調べてみました。someday は some other day と同義であり、未来の「いつか」を漠然と指示しています。Someday a beginning must be made.「いつかは始めなければならない」。一方 some day も未来の「いつか」を示していますがそれは漠然とではなくて”より限定的かつ特定の日”を言う場合が多い。Choose some day that is not so busy.「あまり忙しくない日を選んで下さい」。