古文研究法148-1 藤原定家:見渡せば花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋(とまや)の秋の夕暮れ
ふと我に返って見渡すと春の桜もなく秋の紅葉も散った後であった。そこにあったのは、浦にポツンと立つ漁師の小屋だけで、秋の夕暮れの侘しさが身に迫ってきた。
N君:有名な三夕(さんせき)の歌の中の一首です。小西甚一先生の解説によると、村田珠光~武野紹鷗(たけのじょうおう)~千利休 へとつながる侘茶の流れの中で、特に紹鴎が「侘茶の精神を最もよく表している歌」として定家のこの歌を挙げた、とのことでした。第808回で見たような松尾芭蕉の「わびさび=陰性美」に繋がっていくのでしょう。
Coming to myself to look around, I found there were no cherry blossoms and red leaves on the dreary beach in late autumn. A mere sight of a fisherman's hut made me feel lonely, when evening was drawing in.
S先生:第1文の and は nor に変えましょう。there are A nor B「AもBもない」です。ここはN君にしてはケアレスミスでしたね。第2文は素晴らしい。思わず You've got it !「参りました!」「やりましたね!」と声をあげたくなりました。この文を見ただけでN君の作文力が普通ではないレベルまで上がってきたのがわかります。長いこと頑張って勉強してきた甲斐がありました。教える側として嬉しいです。私も以下のように作文してみましたが、ついつい冗長になってしまいました。今回はN君の作文のほうが上出来だと思います。
Coming to myself, I looked around the scenery. To my regret, however, I found no cherry blossoms nor red leaves anywhere. The only one I saw was a shabby fisherman's hut standing alone on the beach. How lonesome I felt, left alone in the late autumn evening !