kn0617aaのブログ

文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第628回 2022.12/5

古文研究法64-2 枕草子:「あかねさす日に向かひても思ひ出でよ 都は晴れながめすらむと」と御手にて書かせ給へる。いみじうあはれなり。さる君見置き奉りてこそ行くまじけれ。

「そなたが日向国へ着いたら東から登ってくる太陽に向かってせめて思い出しておくれ、今頃都では私が、この絵の晴れない空に長雨が降り続いているが如くに、晴れない心でぼんやりとそなたのことを考えながら物思いに沈んでいるだろうと」と、定子様が御自筆でお書きになっているのがしみじみと趣深く感じられた。こんな愛情のこまやかなご主人から離れて、とても遠くへなんか行けるものではなかろうよ。

N君:まずは定子の歌ですが「長雨」と「眺め」が掛詞になっていることは僕にも分かります。第431回に登場した小野小町の歌にも同様のパターンがありました。名詞「眺め」は「することもなくボンヤリと物思いに耽ること」です。それに掛かる「晴れぬ」の「ぬ」が問題です。「打消ず連体ぬ」なのか、それとも、「完了ぬ終止ぬ」なのかを考えなければなりません。ここは意味的に言って「打消ず連体ぬ」が名詞「眺め」に掛かっていると考えて良い、と思いました。「晴れない物思い」という意味です。「御手にて」は「自筆で」の意で、もらう方にとってはとても名誉なことです。普通は代筆「仰せ書き」ですからね。「さる君」は「そのような御主人様」、つまり、「そんな優しい定子様」くらいの意味。「見置く」は「離れる」。「え+否定語」はこれまで何度も出てきた通り「不可能」を表します。

”When you arrive at Hyuga filled with the light of the rising sun in the east, I would like you to recall a drearily raining scene of Kyoto, where I think of you sighing deeply."  I was very touched that Princess Teishi had written down the poem by herself.  Who on the earth can get apart from such a merciful mistress as Teishi ?

S先生:今日はいろいろ言いたいことがあります。第1文 when節の中の時制についてN君は「乳母はまだ日向国に着いていないから未来のことだ、普通は will arrive だが【副詞節の中身は未来のことでも現在形で書く】という規則にしたがって arrive にしよう」と思ったのでしょう。この考えは正しいです。でももう一歩押し進めてみましょう。元来は will have arrived という未来完了の意味を表したかったのですから、それを have arrived という現在完了の形にする、というのがここでの正解であろうと私は思います。たとえば、We'll start as soon as it has stopped raining.「雨がやみ次第出発しよう」のような例文が考えられますね。同じく第1文の the light of the rising sun in the east に違和感があります。このように書くなら in the east は除外すべきです。この rising を sun の後に持って来るなら the light of the sun rising in the east となって最後の副詞句 in the east が生きてくるのです。一見なんでもないことのように見えますが、こういう所が大切なので、もう一度かみしめておいて下さい。第3文の on the earth は誤りで定冠詞は不要です。「一体全体誰が」と言いたいときに Who on earth とか Who in the world とか言いますが、定冠詞があったりなかったりで、覚える方は大変だね。これは使って慣れるしかありません。同じく第3文の such a merciful mistress as Teishi はいけません。この mistress という名詞はたとえば「宿屋の女主人」のような下賤な語感を持っているので中宮定子にはちょっと使えません。ここは mistress の代わりに princess を使っておきましょう。

"When you have arrived at Hyuga, don't fail to recall Kyoto looking toward the sun rising in the east.  I wish you would think that just at this moment I will be lost in vague and melancholic thought of you as if it is raining on from a dark sky in Kyoto in this picture."  I was keenly charmed by her own handwriting.  I wonder if there is anyone who can leave such a warm-hearted princess to go to a distant place.

N君:S先生の第2文について尋ねたいことがいろいろあります。be lost in ~ というのは「気もそぞろになって~の考えに沈む」みたいな意味ですか?

S先生:この be lost in ~ というのはもともと「~の考えにふける」の意で、~のところに必ず thought が来ます。ここでも vague and melancholic thought となっていますね。

N君:as if it is raining ~ となっていますが、ここは仮定法を使って as if it were raining ~ とすべきだと思います。

S先生:その質問を待っていました。ここを尋ねてこないような生徒なら私はもう教えたくありません。たしかに仮定法を使うのが普通の感覚だと思いますが、「雨は現に絵の中に描かれている事実」であることを重視して、私は were ではなくて is を使いました。

N君:なるほど、それもそうですね。最後にもう一つ。it is raining on 、、、の「on」はどういう意味でしょうか?

S先生:これは「継続の on」です。第437回でN君自身が使っているのに忘れていましたね?

N君:ああ、光孝天皇の「わが衣手に雪は降りつつ」でした。ウッカリ忘れてました。

S先生:覚えて忘れ、忘れては思い出す。この「行ったり来たり」が勉強なのです。