古文研究法109-1 栄華物語より:この姫君いみじう美しうおはするを、栗田殿聞こしめして、この宮を迎へ奉りて子にし奉りて、かしづき聞こえ給ふほどに、さるべき人々訪れ聞こえ給ふ人多かりけれど、聞き入れ給はぬほどに、権中納言(ごんちゅうなごん)切(せち)に聞こへ給ふ。
この姫君は大変可愛らしくていらっしゃったが、その噂を栗田殿がお聞きになって、この姫君を養女にむかえてお育て申し上げているうちに、立派な方々がたくさんやって来て求婚したけれど、栗田殿はお許しにならなかった。しかしそうこうしているうちに権中納言がたいそう熱心に求婚してきた。
N君:この文章では難しいことは抜きにして内容把握はできます。「美し」は beautiful というよりはどちらかと言うと pretty の意が強い、とのことです。「かしづく」は「そだてる」で、単に bring up や nurture というよりは慈愛を込めた cherish とか foster とかの方が合っています。「訪れ聞こえ給ふ人」はそのまま訳せば「訪問してきた人」ですがここでは「姫君に求婚してきた人」でしょう。「せちに」は「熱心に」でなんとなく分かります。さて問題は「聞き入れ給はぬほどに」の主語が誰か? です。僕はこの主語は姫君だと思っていましたが、正解は養父栗田殿でした。ここへ至までの敬語の使い方を見ると、養父栗田殿より姫君のほうが位が上になっていることが分かります。そうして「聞き入れ給はぬほどに」における敬語の使い方が普通レベルなので、主語は姫君ではなく養父栗田殿、となるようです。もしも姫君が主語だったら「もっとコテコテの敬語が使われるハズ」ですからね。
Hearing people say that the young lady is very pretty, Lord Kurita adopted her as his daughter and cherished her like a jewel. Gentlemen of high rank came to propose to her. Lord Kurita, however, did not accept their offer. After a while, a vice councillor of state eagerly asked her to marry him.
S先生:第1文 adopted her as his daughter の as his daughter は除外するほうがよいでしょう。その意味は既に adopt の中に入っていますから。同様に文末の like a jewel も除外するほうがよいと思います。その意味は既に cherish の中に入っているし、もっと言えば、この like a jewel という日本人的発想は欧米人から見るとちょっと違和感があると思いますよ。第2文 did not accept the offer はもっと強い拒絶の意志を表すために would not ~ に変えましょう。
Hearing that the young lady was very lonely, Lord Kurita adopted her and brought her up with the greatest care. Before long, many high-ranking lords came to propose to her, but Lord Kurita would not allow them to marry her. Meanwhile, however, Gon-no-Chunagon, Vice Minister of the Court, was eager enough to come all the way to propose to her.
N君:先生の第3文の was eager enough to come all the way to do の all the way というのはどういう意味ですか?
S先生:「熱心なことにわざわざやってきて~した」という意味で「わざわざ、骨折って、遠路はるばる」みたいな意味を添えています。