kn0617aaのブログ

文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第660回 2023.1/6

古文研究法76-1 更級日記:また聞けば、侍従の大納言の娘、亡くなり給ひぬなり殿の中将のおぼしなげくなるさま、わがものの恋しき折なれば、いみじくあはれなりと聞く。上(のぼ)り着きたりし時、「これ手本にせよ」とて、この姫君御手を取らせたりしを「さ夜更けて寝覚めざりせば」など書きて、、、(以下次回へ続く)

また人の話で聞くと、侍従の大納言の姫君がお亡くなりになったそうだその夫である中将様がお嘆きになっているそうでその様子を、ちょうど私も何事につけて悲しく感じている最中だったので、心から「お気の毒に」と思って聞く。私が京都にやって来た時、「これを手本にしなさい」と、ありし日の姫君お書きになったものを私にくれたが、それに「もし夜が更けてそのまま目が醒めなかったら、、、」などと詞書(ことばがき)を書いて、(以下次回へ続く)

N君源氏物語の読解が難しい、といつも文句を言っている僕ですが、この更級日記も凄いです。「侍従の大納言の娘」が登場したのはよいとしても、その次に出てきた「殿の中将」が、その亡くなった女性の夫であったことをどこにも書いていないから、話が読めません。さらに話の後半に至って、断りもなく突然主語が筆者(菅原孝標女)となり、さらにその先に登場する「この姫君」というのは、さっきの亡くなった女性、らしいが、このことはどこにも触れられておりません。「古文を読む時には四方八方にアンテナを張り巡らせて、登場人物の人間関係を忖度しないと、話の筋は見えてこない」ということがよく分かりました。理系の生徒にはツライところです。伝聞推定「なり」が続けて出ました。終止形接続なのでそれと分かります。その次に出てきた「あはれなり」の「なり」は形容動詞語尾に過ぎません。「わがものの恋しき折なれば」が挿入句だと気付くのは困難で、気付いたとしても「ちょうどその時私事でもツライことがあったので」と訳せるかどうか、全く自信がないです。「御手」は「書いたもの」。ここの「この姫君の御手を取らせたりし」は古文特有の言い方です。「の」は主格。御手を、の後に「私に」が省略されています。「今は亡き姫君が書きつけた紙を私にくれた、その紙」のような意味になります。

I hear that the daughter of Dainagon, Grand Chamberlain, has passed away.  I felt sinserely pity to hear that her husband, Lord Chujo, was seriously grieving over her death, for I encountered another sad event just then.  She was sweet-tempered enough to give me a calligraphic model she wrote for herself when I knew nothing just after I came here to Kyoto, saying tenderly, "You can practice, following this one."  On the paper I found her poem with a serious foreword : When the night wears on, and if I could not be awaken 、、、."

S先生:今日は色々と注文があります。第2文の I felt sincerely pity は明らかに変です。N君は pity のことを形容詞だと思っているようですが、pity に形容詞はなく、ここの pity は名詞です。その名詞の前に副詞 sincerely が来るのは間違いなので、sincerely を除外してください。deep のような形容詞ならまだ許せる所です。同じく第2文後半の for I encountered another sad event just then 「ちょうどその時悲しいことがあったので」ですが、表現が強すぎるし、何より event 「大事件」という名詞に違和感があるし、encounter というのは「困難や危険に出会う」という語感なのでここでは不適切だと思います。ここはもうちょっと柔らかく for I was having a sad experience just then くらいにしておきましょう。第3文も間違いではないのですが大仰で硬い印象を受けます。前半の She was sweet-tempered enough to give ~ はもっと簡潔に She kindly gave ~ くらいで充分です。また後半の when I knew nothing just after I came her to Kyoto もちょっと説明のし過ぎです。思い切って I knew nothing just after を除外して when I came here to Kyoto にしてみてはいかがでしょうか? 第5文後半の if I could not be awaken「もし目が醒めなかったら」はこれでも良いですが、「万が一」の意味を出したいなら could よりも should のほうが良いかもしれません。

I hear the daughter of Grand Chamberlain has gone to the next world.  I felt very sorry for her husband, Lord Chujo, to see him deeply mourning over her death, for just then I myself was grieving for a certain matter.  When I came up to Kyo, the princess gave me her own calligraphy, telling me to follow the example and practice writing.  It said, "Should I not wake up after the night has far advanced、、、."

N君:先生の第2文末に出てきた a certain matter は「とある出来事」でよいですか?

S先生:これは以前にも言いましたが、certain の場合は「話者(筆者)はそのことを具体的に知っているけれども敢えて詳しくは言わない」場合の「とある」という意味です。一方 some の場合は「話者(筆者)もそのことをちゃんと知ってはいない」場合の「とある」という意味です。ここでは筆者は、姫君の死、とはまた別の固有の悲しい出来事を経験していたわけですから、当然そのことをよく知っているはずです。しかし今は姫君の死について語っているのですから、筆者固有の悲しい出来事についてはここでは詳しく言及しなかった、ということです。このような場合には a certain matter が適切になります。

N君:先生の第4文 Should I not wake up はどういう構成なのでしょうか?

S先生:これも以前触れたことのある「If 省略体」です。If I should not wake up「万が一目が醒めなかったら」の If を省略して助動詞 Should が前に飛び出した形です。ここも確かに大切ですが、これに続く after the night has far advanced、、、についてN君の指摘がなかったことは寂しい。この場面は「夜が更けていってもし目が醒めなかったら」と言っている場面です。現時点から見て「夜が更ける」というのは未来のことです。ゆえに after the night will have far advanced という風に未来完了形で書くべきなのに、実際は現在完了形になっています。この理由は「副詞節の中では未来(完了)のことは現在(完了)で書く」という規則があるからです。これは何も難しいことではなくて「明日雨なら家に居る」と言いたい時に、I will stay at home if it will rain tomorrow. とは言わずに、I will stay at home if it rains tomorrow. と言いますよね。それと同じことです。