古文研究法108-4 大鏡より:さて後ほど経て賀縁阿闍梨(あざり)と申す僧の夢にこの君達ふたりおはしけるが、この後少将はいたう心地良げなるやうにておはしければ、阿闍梨「君はなど心地良げにておはする、母上は君をこそ兄君よりはいみじく恋ひ聞こえ給ふめれ」と聞こえければ、(後少将)「時雨(しぐれ)とは蓮(はちす)の花ぞ散りまがふ なに古里に袂(たもと)濡(ぬ)るらむ」などうち詠み給ひける。
そうしてその後しばらく経って賀縁という偉い坊さんの夢にこの若殿2人がお出ましになったが、その時に後少将がゴキゲンな様子だったので、坊さんが「あなたはどうしてそんなに気持ち良さそうにしているのですか? 母上はお兄さんよりもあなたの方をより愛していたようですのに」と尋ねたところ、後少将は次の歌を詠んだ。「細い雨と蓮の花が入り混じって降るこの浄土の世界で私は今気持ち良く日々を送っているのに、どうして人間世界では私のために嘆き悲しんでいるのだろうか?」と。
N君:「など」「なに」は英語で言えば疑問詞 why に当たります。ここ最近の大鏡シリーズ4回分は、細かいことはさておき、話の筋だけは理解できました。短めの文でハッキリものを言う軍記物や、最近の言い方に近い江戸時代物は、なんとか理解できる気がします。すると、やはりキモは平安時代の王朝絵巻シリーズです。「主語や目的語が書かれることなく次々と変遷していく長い話、その話の筋をどうやって見極めるか」が問題です。古文が分からない、という漠然とした分からなさから一歩踏み出して、「平安時代の王朝モノが特に分からない」と自覚できたことは、僕の中では大きな進歩です。そしてこのことはおそらく僕だけでなく多くの中高生も同じだと思います。
After a while, the brothers appeared in the dream of an eminent priest named Gaen. There the Lower General looked very fine. The priest said to him, "Why do you feel so good ? Your mother, who loved you more than your elder brother, is disappointed by the simultaneous death of you two.“ The Lower General composed a poem : "Why do people feel sad for my death in this world although I feel comfortable in another world where lotus flowers are falling like a fine rain ?"
S先生:第4文後半の by the simultaneous death of you two「あなた方おふたりがいっぺんに亡くなったので」が硬いです。ここは普通に that you two passed away at the same time と表現するほうが良いと思います。
After a while, a great priest named Gaen dreamed of the two brothers. Seeing the Lower General in so good a mood, the priest said to him, "Why are you so happy ? Your mother seemed to love you more than your brother." The Lower General replied in a tanka, "I am living a happy life in this Pure Land where lotus flowers are falling as quietly as drizzling rains. I can't understand why you are grieving over my death."
N君:先生の第4文の I am living a happy life は I live a happy life でもよいですか?
S先生:それもよい。普通は状態動詞は進行形にはしないものですが、このように進行形にすることで「今しあわせにやってます」という感じを強調することができます。