古文研究法69-2 日本永代蔵:然(しか)りといへども、残して子孫のためにはなりぬ。密かに思ふに、世にあるほどの願ひ、何によらず、銀徳にてかなはざること、天(あめ)が下に五つあり。それより外(ほか)はなかりき。
たしかに金銀はあの世では役に立たぬが、金銀を残しておけば子孫のためにはなる。密かに考えるに、世の中にある願いのうちお金の威力ではどうにもならない事が天下に5つある、それ以外にはない(その5つ以外のことなら金でなんとかなる)。
N君:平安・鎌倉期に比べれば江戸時代の文章はかなり理解しやすくなっています。西鶴先生のおっしゃることはよく理解できます。ところで「金ではどうにもならない5つの事」とは何でしょうか? 西鶴先生は答えを残してくれていませんので、僕が代わりに想像してみると「健康・夫婦愛・友情・知能・達成感」くらいでどうでしょうか。
The stereotyped assertion is true, but your posterity will be glad if you leave your property for them. Concerning money and wealth, I think inwardly as follows : All wishes but five things in this world can be realized with money. I dare to keep the five things in my mind.
S先生:第1文冒頭部分は前回からのつながり上、It is true, but、、、とか、These are true, but、、、とするほうが簡潔かつ自然な感じがします。第3文の I dare to keep the five things in my mind. は訳文にはありませんが、このように書き足すのも良いですね。
Indeed it is true, but it will do good to your descendant if you leave some money for them. But when you think inwardly, you will find that you have five worldly desires which you cannot satisfy only with money. Money can manage anything but the five.
N君:先生の第1文 but it will do good to your descendant「子孫には良い効用をもたらす」の it は何を指していますか?
S先生:後ろの if 節を指しています。指示代名詞なのに本物よりも先に顔を出す、という現象が英語ではしばしばあるので気をつけましょう。
N君:先生の第2文に出てくる関係代名詞 which は satisfy の目的語になっているので、目的格の関係代名詞と考えてよいですか?
S先生:そうです。目的格なので省略することもできてその場合は you have five worldly desires you cannot satisfy only with money となります。このように目的格関係代名詞が省略された節のことを接触節と呼んでいます。
N君:先生の第3文 Money can manage anything but the five. は、お金を人間のように扱っている気がします。
S先生:こういう言い方を擬人法といいます。時々出会うので慣れておきましょう。また文末の the five の後には things が省略されていると思っていただいてよいです。