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文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第392回 2022.4/14

帚木289・290:(源氏)「中将召しつればなむ。人知れぬ思ひのしるしある心地して」とのたまふを、ともかくも思ひ分かれず、ものにおそはるる心地して(女)「や」とおびゆれど、顔にきぬのさはりて音にも立てず。

「中将をお召しになりましたゆえ、わたくし近衛の中将めが参上いたしました。ええ、あなたを人知れずお慕い申しておりました。今その思いが叶った心地がいたします」と、源氏は声を押し殺して囁いた。女は一体何が起こったのか見当もつかない。なにやら悪霊にでも襲われたような心地がして「ああっ」と怯えるけれど、顔に夜の衣がかぶさってしまって声にならない。

N君:日本における夜這いの文化はこのあたりから始まったのでしょうか。

Suppressing his voice, Genji said, " As you asked Chujo-no-kimi to come, I, Konoe-no-Chujo, have come to see you instead.  As you suppose now, I have adored you inwardly.  Now I feel as if my wish were realised."  She was unable to know at all what had happened.  She felt horrified as if she had been assaulted by an evil spirit and burst into a short striek, which did not make any effective outcry because of the cloth covering her face.

S先生:今日の作文はよくできてはいるのですが、大切でややこしいポイントをお話しなくてはなりません。そのまえに一つ、マイナーな話をかたずけておきます。第6文後半の which did not make any effective outcry because of the cloth covering her face に使われた outcry は「社会的な抗議」の意味であり、an outcry against building an American air force base at Henoko「辺野古地区米空軍基地建設への抗議」のように使われるのが普通です。本文では「女の源氏への抵抗」という意ですから outcry はなじみません。そこで which was absorbed by the cloth covering her face のように簡潔に書くのがよいでしょう。さて今日取り上げたいのは第4文 Now I feel as if my wish were realized という仮定法の文章です。何度もいいますが「仮定法というのは、筆者(話者)が現実とは逆の仮定をして、それが実現不可能なことだと分かっていることを相手に知らせるために、わざと変な形の動詞を使う」という表現方法です。N君の作文をそのまま素直に解釈すると Now I feel as if my wish were realized「叶ってもいないのにまるで叶っているかのように感じている」となりますが、これは明らかにおかしい。今、源氏は女の寝床に到着して「すでに願いが叶ってしまっている」状態なのですから、仮定法ではなくて普通の文 Now I feel as if my wish has been realized「本当に願いが叶っているように感じている」という具合に、主節と従属節の時制を一致させてあければそれでOKなのです。これは仮定法でもなんでもない普通の文です。例文を挙げましょう。It looks as if it is going to rain.「一雨来そうだ」は普通の文ですね。しかし、It looks as if it were going to rain.「いま雨は全く降っていないけど雨が降りそうだ」は仮定法の文です。両者の差を感じ取って下さい。

"I heard you had summoned Chujo, so I, Imperial Guard Chujo, have come to see you.  I have been longing for you secretly for a long time.  I feel as if my long cherished wish has been realized," Genji whispered in a low voice.  She did not know what on earth had happened.  "Ah !" she cryed terrified as if she had been attacked by an evil spirit.  But it was muffled by the bedclothes.  

N君:as if ~ の形はすべて仮定法だと思い込んでいたのですが、そうではないことに今日初めて気づきました。

S先生:「夜這いの文化」について一言。古来日本では妻問婚(つまどいこん)といって、次のような結婚のシステムが継続されてきたのです。「甲斐性のある男があちこちの女の家へ通い、子ができれば女の家で養う、その経済的負担は男が負う。たくさん居る女のうち社会的に上位にある女を一応正妻とみなして、男は最終的にはその正妻の家へ落ち着く。男はフラフラしていて楽しいようだが、経済的な試練も大きい。巣作りしたい性質を持つ女と、適当に遊びたい性質を持つ男が、互いに妥協しながら作り上げたのがこの妻問婚なるシステムであった」というわけです。昨今は近代的な女性の地位向上運動に押されて、妻問婚のシステムや夜這いの文化はなくなってしまいましたが、日本人のDNAの中に深く刻まれているのは間違いありません。たとえば、ある夫婦の子供に鯉のぼり、武者鎧人形、ひなまつりセット、七五三衣装、、、などを用意するのは、なんとなく母親かたのおじいちゃん・おばあちゃんだったりするでしょう?

N君:as if (as though) についてもう一度整理してほしいです。

S先生:さっき言ったことと重複するかもしれませんが、整理しておきましょう。He talks as if he knows all about it. 「知っているかのように話す」や、He talks as if he has known ~「知ってしまっているかのように話す」は、仮定法ではなくて普通の文です。これに対して、He talks as if he knew ~「知らないくせして知っているかのように話す」や、He talkes as if he had known ~「知らなかったくせして知っていたかのように話す」は仮定法です。現在の反実仮想を表したいときに動詞の過去形を使うので仮定法過去と呼び、過去の反実仮想を表したいときに動詞の過去完了形を使うので仮定法過去完了と呼んでいます。ここまで主節の時制が現在形だったので分かりやすかったと思います。では主節の時制が過去形の場合はどうでしょうか。He talked as if he knew ~「知らないくせして知っているかのように話した」。He talked as if he had known ~「知らなかったくせして知っていたかのように話した」。これらも仮定法と考えてよいでしょう。このように仮定法では、主節の時制とは関係なく、反実仮想自体の時制が現在なのか過去なのかによって、動詞の形が決まるのです。先ほどの例文をもう一度考えてみますと、It looks as if it is going to rain.「一雨来そうだ」は普通の文であり、今にも降りそうだという切迫感が感じられます。これに対して It looks as if it were going to rain.「今雨は降っていないし、降るはずもないのだが、降りそうだ」となって、仮定法ではあるものの、ちょっと矛盾した文になってしまいます。She looks as if she is dying.「瀕死の状態に見える」は普通の文で切迫感があります。She looks as if she were dying.「死ぬはずもないのだが、死にそうに見える」は仮定法の文で、ちょっと矛盾した文ですよね。as if が来たら必ず仮定法だ、と思い込んでいる生徒は were を使ってしまうわけですが、いつもそういう行為が正しいとは限らないことを、ここでもう一度考えて欲しいのです。

N君:仮定法から離れて as if のそもそも論について解説お願いします。

S先生:もともと as if は 、as A if B「BならばAだろうように」から生まれた言い方で、Aの部分が省略されてしまって今の形になったのです。B部分がありえない仮定なら仮定法の文になるし、ありうる仮定なら普通の条件節にすぎません。仮定法の例を考えてみましょう。たとえば「あいつはまるでお化けでもみてきたかのような顔をしている」と言いたい時に普通は He looks as if he had seen a ghost. で充分ですよね。しかしこれはもともと、He looks as he would look if he had seen a ghost. だったのです。この as の前に形容詞あるいは副詞が来る文も当然考えられるわけで、この時は as 形or副 as A if B の形となり、He looks as terrified as he would look terrified if he had seen a ghost.となるはずなのです。これではあまりに長すぎるのではじめに示した普通の形に落ち着くというわけです。これと同じような例文はいくらでもあります。たとえば、He speaks English as fluently as he would it fluently if it were his native language. では長すぎるので、He speaks English as if it were his native language.  になるわけですし、She looks as beautiful as she would look beautiful if she were an angel.  では長すぎるので、She looks as if she were an angel.  となるのです。なお、口語では as if はほとんど like と同じで、He was blowing like he had run a long way.「まるで長い距離を走ってきたかのようにあえいでいた」というようなくだけた言い方があり得ます。文語と違って口語では、文法よりも感覚や言い易さが重視されるので、本で勉強した生徒がとまどってしまうことがよくあるのです。言葉は生きていて今でも変化し続けているので、勉強する側としては「ひとつの観念に囚われ過ぎない」ことを肝に銘じておくべきでしょう。