kn0617aaのブログ

文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第391回 2022.4/13

帚木286・287・288:皆しづまりたるけはひなれば、かけがねを試みに引きあけ給へれば、あなたよりは鎖(さ)さざりけり。几帳を障子くちには立てて、火はほのぐらきに見給へば、唐櫃(からびつ)だつ物どもを置きたれば、乱りがはしき中を分け入り給へれば、ただひとり、いとささやかにて臥したり。なまわづらはしけれど、上なるきぬ押しやるまで、求めつる人と思へり。

皆すっかり寝静まった気配がする。源氏がためしに掛け金を引き上げてみると、ややや、内側からの鉤は鎖されていないらしくて、スッと戸が開いた。几帳が障子口のところに立ててあり、ほの暗い灯火に透かしてみると、通路に唐櫃のような物が置いてあってゴタゴタしている。その中を分けて源氏は奥へ入って行った。しめた、女はただ一人で可愛らしく寝ている。なんとなく気がとがめたが、源氏は女が被っている夜の衣を押しやった。その瞬間まで、女は戸を開けて入って来たのはてっきり女房の中将の君だと思っていたのだが、、、。

N君:ドキドキする展開になってまいりました。それにしても最後の一文「なまわづらはしけれど、上なるきぬ押しやるまで、求めつる人と思へり」での、主語の入れ替わり方がすごいです。「なまわづらはし」と思ったのは源氏、「押しやった」のも源氏、なのに「入ってきたのが求めつる人(中将の君)だと思い込んでいた」のは女(少年の姉君)だったわけです。このあたりのジェットコースターのような主語の入れ替わりこそが、古文を分かりにくくする主な原因なのですが、紫式部さんの認識はどうなのかと問いただしてみたい気分です。

There was no sign of anyone being still awake.  Genji tried  pulling up the latch on the door.  Surprisingly enough, it had been undone.  He could open the door easily.  A partition had been placed near the entrance behind the paper screen.  Peering into the darkness through a dim light, he could see something like a Chinese style box on the aisle.  The inside seemed untidy.  Paying little attention to that, he squeezed into the room.  "Oh, I'm lucky.  She is in bed alone.  How pretty !"  He said to himself.  Though he felt a little pang of conscience, he tried unveiling the cloth, which seemed a part of her pajama, on her face.  Until this moment, she had definitely considered the person who entered her room as one of her ladies-in-waiting, Chujo-no-kimi.

S先生:最近では最も出来の良い回となりました。第1文 There was no sign of anyone being still awake. が締まっていて見事な滑り出しでした。第2文および第13文に出てくる try+動名詞「試しに~してみる(もうやった)」も正しく使えています。以前にも言いましたが try to do「がんばって~しようと試みる(まだやってない)」との区別にはいつも気を付けておきましょう。He tried to write to her, but he could't.「書こうとしたが無理だった」と、He tried writing to her, but she didn't reply.「試しに書いてみたが返事はなかった」との違いを、もう一度はっきりさせておきましょう。第13文の非制限関係代 名詞節 which seemed a part of her pajama はいくぶん explanetory ではありますが、まあよいでしょう。それと、日本語では「カギはかかっていなかったらしい」となっていますが、実際には「カギがかかっていなかったから開いた」のであって、「らしい」を英語で表現する必要はありません。そういう意味で、N君の第3文の it had been undone は正しい英訳であったと思います。これからも、和訳の字面に迷わされることなく、内容で勝負しましょう。

All seemed to be fast asleep.  Genji tried slipping the latch open.  To his surprise, it had not been bolted inside.  It opened smoothly.  A curtain had been set up behind the sliding doors.  Looking through a dim light, he could see something like Chinese chests scattered in the passage.  He made his way through them to the back room.  To his great joy, she lay alone in an attractive way.  Feeling a little guilty, he pulled the bedclothes off her.  Until the moment she had thought it was lady Chujo who opened the door to enter the room.

N君:先生の第1文に出てくる be fast asleep というのはどういう意味ですか。

S先生:fast は形容詞「早い」、副詞「早く」と思っているでしょうが、副詞の fast には「しっかりと、かたく」のような意味があります。a door shut fast「ピッタリ締まったドア」とか、They were fast at his heels.「すぐあとに迫っていた」のような用法は大修館の辞書に出ています。同じように、私の作文に出てきたような be fast asleep「ぐっすり寝て」もあります。今思い出しましたが、副詞 sound にも「ぐっすりと」の意味があって、He fell sound asleep.「ぐっすり眠り込んだ」のように使われます。