帚木198・199・200:(左馬頭の言葉続き)さるままには、まんなを走り書きて、さるまじきどちの女ぶみに、なかばすぎて書きすすめたる、あなうたて、この人のたをやかならましかば、と見えたり。ここちにはさしも思はざらめど、おのづから、こはごはしき声に読みなされなどしつつ、ことさらびたり。上臈の中にも多かることぞかし。
そういうことが行き過ぎると、女だてらに漢字を器用に書き連ねて、たとえば本来仮名でやりとりするはずの女どうしでも、半分以上もぎっしりと漢字で書いてやりとりするなんてことになる。そういうのは見良いものではないので、ああイヤだ情けない、この人ももう少しおしとやかだったら良かったのになあ、という感じに見えます。書いているほうはそれほど意識していないのかもしれませんが、そんな手紙はおのずから男っぽい声に読めてしまったりして、なんだかわざとらしいものです。身分の高い女房どもの中にもそんなのが結構いそうです。
N君:ひらがな=かな=仮名、に対して、まんな=まな=真名=漢字、です。
However, if her talent were excessive, she would end up writing Chinese characters more skillfully than common people do. For example, she would come to exchange letters filled with solemn Chinese characters, though it is common for women to use Hiraganas in their correspondence. I don't think the scene is favorable. I wish she were a little more humble. Such kind of women may not be conscious of their high educational background, but I cannot help using manish voice unintentionally when I read their letters. A letter filled with Chinese characters written by a woman seems to be somehow unnatural. Among wives or ladies-in-waiting of high rank officers' houses, I guess, are quite a few women who are unconsciously proud of their academic carrer.
S先生:今日のところは構文的にはあまり言うことはないが、語法としてふさわしくないところがいろいろあるので、ひとつひとつ注意して聞いて下さい。第2文の exchange は「やりとりする」の意で使ったのでしょうが、この動詞は exchange A with B の形を好むので、ここでは exchange ではなくて write くらいで流しておくのが良いでしょう。生兵法は怪我のもと、です。同じく第2文の Hiraganas はいけません。これは以前にも一度注意したことがあるのにN君はさっぱりと忘れていましたね。つまり「日本語はたとえ複数でも s(es) を付けない」ということです。100 dollars とは言うても 100 yens とは言いません。Tatamis はイカンが Tatami mats はOKです。ゆえにここは Hiragana で良いのです。第3文は I don't think the scene is favorable とのことですが、好ましくないのは景色ではなく女なので、I don't think she is a pleasant thing to watch. くらいでどうでしょうか。本来この thing は person にすべきところなのですが、あえて thing を使って「軽蔑の意」をこめているのです。ちなみに、I think she is not a pleasant thing to watch と作文したい生徒がいるかもしれませんが、それはいけません。英語では「否定したいならまずはじめに否定する」という原則があるのです。この原則は有名なのでN君も聞いたことがあるでしょう。日本語のあいまいさ・後回し感とは大きな違いですね。第5文の their high educational background にN君らしい硬さが出ています。ここは their high knowledge くらいでいいと思います。肩の力を抜きましょう。同じく第5文後半の I cannot help using manish voice unintentionally には抵抗があります。あまりにも直訳しすぎていると思います。I cannot help feeling as if manly voices were heard くらいのフワッとした意だろうと思います。それから manish というのは「(女が)男みたいな」の意なのですから、N君の作文での使われ方は間違っています。第6文の A letter filled with Chinese characters written by ~ という言い方に違和感を持って欲しい。過去分詞が2回続けて出現していることを「気色悪い」と感じてほしいのです。こういうところは A letter full of Chinese characters written by ~ という具合にしましょう。第6文の high rank officer's houses も硬すぎるので high ranks くらいに縮めて使いましょう。以上をまとめると、肩の力を抜け、日本語に複数なし、はじめに否定しろ、同型を避けよ、逐語でなく内容重視、ということでした。
If they have too much knowledge, they are apt to write letters in Kanji skillfully when they should exchange them with other women in Kana, filling more than half of them with Kanji. Such ostentatious women are unpleasant to us men. I wish they were a little more modest. They may not be conscious that they are behaving affectedly. But they make you feel as if you were reading letters written by men. There seem to be not a few who like to show off among the ladies of higher ranks.
N君:S先生の作文第4文「そういう女の書いた手紙を読むと、(漢字が多いので)男から来た手紙を読んでいるような気になってしまいます」には、感激しました。まさに筆者はそういうことを言いたかったのであろうと、僕も強く同意する次第です。このような作文は「英作文の試験対策」という枠組みから一歩外へ抜け出してしまったかのようですが、これこそが英作文を続ける楽しみであることに疑いはありません。