kn0617aaのブログ

文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第782回 2023.5/9

古文研究法132-3 大鏡より:いとあやしく(某の主)「さまで大殿籠(おおとのごも)入りたりとは見えさせ給はぬに、いかなればかくてはおはしますぞ」と思ひて、とばかり御前にさぶらふにぞ、うち驚かせ給ふさまにて(兼家)「御装束は果てぬるにや」と仰せらるるに、(某の主)「聞かせ給はぬやうにてあらむと思(おぼ)しめしけるにこそ」と心得て立ちたうびにける。

某の主はひどく不審に感じて「それほど熟睡しておいでのようでもないのに何故こんなふうにしていらっしゃるのか?」と思いながら、しばらく兼家公の御前に控えていると、兼家公はふと目を覚ました様子で「式の飾り付けは済んだのか?」とおっしゃった。そこで某の主は「ははあ、兼家様は(この事件のことを)わざとお聞きにならないふりで済まそうとお考えなのだな」と気付いて退席した

N君:何か不祥事があった時に上司が「部下が勝手にやったことで私は知りませんでした」と言い訳する、そのことがたまたまうまくいった、という話であることが見えてきました。令和の現在ではこのような問題はガラス張りになっているので、いくら上司が隠そうとしても無理でしょう。日本には昔からこういう文化があったのだなあ、と勉強になりました。「大殿籠る」は「寝る」の尊敬語で、その主語は必ず高貴な方ですから、ここでは兼家公でしょう。副詞「とばかり」は「しばらくの間」の意味でこれは重要語です。「驚く」は「目を覚ます」でこれも重要語。「驚かせ給う」の「せ」は尊敬助動詞「す」の連用形です。「立ちたうぶ」は見慣れぬ形。「立つ」は「席を立つ、退席する」です。「たうぶ」は尊敬の補助動詞「給う」の口語であまり出会いません。ここでは某の主の行為に対して筆者がほんの少し敬意を払ったのでしょう。「立ち給ひける」とまでは言わないまでも「立ちたうびける」くらいなら良かろう、と思ったのでしょう。

Suspecting Kaneie's intension, the man said to himself, "He doesn't seem to fall into a deep sleep.  Why does he pretend to be asleep like this ?"  He was sitting in front of Lord Kaneie for a while.  Then Kaneie seemed to wake up and said, "Have you finished decorating the Daigoku-den ?"  Hearing his innocent question, the man noticed that Kaneie was trying to let the affair pass as if nothing had happened.

S先生:第1文 He doesn't seem to fall into a deep sleep.「兼家公は熟睡したようには見えない」という文章を見て、私には「動作と状態」に関する違和感が湧いてきました。sleep soundly とか sleep well とかいうのは「熟睡する」という動作を表しており、一方、be fast apleep とか be sound asleep というのは「熟睡している」という状態を表しています。本文に戻って、兼家公は熟睡しているように見えた、わけですから、ここでは動作ではではなくて状態を重視したのです。したがって fall into a deep sleep ではなくて be sound asleep を使いたい。これは間違いとか正しいとかいうことではなくて、場面の状況を正確に表したいなら be sound asleep のほうが幾分いいですよ、というくらいの軽いアドバイスだと思って下さい。ここ以外は良く書けています。

A certain person said to himself, "The Lord doesn't seem to be fast asleep.  Why on earth does he pretend to be so ?"  He was sitting in front of Lord Kaneie for a while, when suddenly the Lord half awoke and asked if the decorations were finished for the ceremony.  The man noticed that he was intending to have nothing to do with the affair as if he had never heard of it.  And then he left there.

N君:先生の第3文後半の ,when ~ は訳し下げる例のやつですよね。

S先生:難しい言葉で言うと「関係副詞の継続用法」というものです。and then と同じですから難しく考える必要はありません。

N君:同じく第3文後半の名詞節 if the decoration were finished for the ceremony「式のための飾り付けは済んだのか否か」ですが、正確には if the decoration for the ceremony were finished とすべきではないですか?

S先生:全くおっしゃる通りです。しかし the decoration for the ceremony としてしまうと主部が重たくなるので、敢えて切り離したのです。実際の英文ではこういうことはよくあるので今後気を付けておくとよいです。この質問は理系のN君らしい質問で、私はちょっと笑ってしまいました。「理系の諸君はこういうふうに英語を見ているのだな」とおおいに参考になりました。英語は実際の生活で使われる道具ですから、数学や物理の原理原則から外れても、口に出しやすい形・読み易い形を指向しているのです。