kn0617aaのブログ

文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第703回 2023.2/18

古文研究法97-2 源氏物語桐壺より:(桐壺更衣の)まみなどもいとたゆたげにて、いとどなよなよとわれかのけしきにて臥したれば、いかさまにか、と思(おぼ)しめし惑(まど)はる。

桐壺更衣は目つきなんかもたいそうだるそうで、いっそうグッタリ人事不省の様子で寝ているので、帝は「どうしたらよかろうか」と心が乱れた。

N君:「臥したれば」には敬語が使われていないのに、「思しめし惑はる」には敬語が使われている、という対比に気が付くかどうか。前者の行動主体は更衣、後者の行動主体は帝です。「まみ」は「目つき」、「われかのけしき」は「意識が朦朧とした状態、人事不省」、「いかさまにか」は「どうしたらよかろうか」です。

She looked tired.  Especially her eyes were exhausted.  She lay in bed as if she were totally collapsed.  Faced with the unbelievable scene, He felt uneasy and did not know what to do.

S先生:第2文がいけません。be exhausted の主語は普通は人であるべきで、このように体の一部分(ここでは目)が主語になるのは不自然です。ここは Especially her eyes seemed very dull. くらいにしましょう。seem to be dull でも良いですが硬苦しい感じになるので to be は省略することが多いようです。

She looked very tired with her eyes dull.  Seeing her lying dead as if she were unconscious, the Emperor was quite at a loss what to do.

オリジナル勉強風呂Gu 第702回 2023.2/17

古文研究法97-1 源氏物語桐壺より:(病身となった桐壺更衣は)御子をば留(とど)め奉りて忍びてぞ出で給ふ。限りあれば、さのみも止めさせ給は、御覧じだに送らぬおぼつかなさを、言ふかたなく思(おぼ)さる。いと匂ひやかに美しげなる人の、いたう面痩(おもや)せていとあはれとものを思ひ沁みながら言(こと)に出でても聞こえやらず、あるかなきかに消え入りつつものし給ふを、御覧ずるに、来し方行く末思(おぼ)しめされず万(よろず)のことを泣く泣く契(ちぎ)り宣(のたま)はすれど、御答(おんいら)へも聞こえ給はず。

病身となった桐壺更衣は自分の産んだ皇子を宮中に残したまま、(療養のためというよりは死を覚悟して)こっそりと里下りした。宮中の規則もあることとて、帝は更衣の退出をやめさせることもできず、見送りさえできない不安な思いを深く心に刻むのであった。もともと匂うように美しかった更衣はたいそうやつれて、帝や皇子との今生の別れの悲しさを心に沁みて思いながらも、それを言葉に出して帝に申し上げることもできず、ただ朦朧として遠のく意識の中に居た。その様子を見た帝は前後不覚でオロオロして、色々な約束事を口に出すのだけれど、更衣は返答もできなかった。

N君:前々回・前回に続いて「書かれることなく変わっていく主語をどのように補っていくか?」の練習となる文章です。話の筋を見極めるうえで最も重要なところ。古文難民のキモです。今回は主語を判定する上で敬語が役に立ちます。登場人物の一人に帝がいますからね。帝の行為には二重の尊敬語などが使われているでしょうし、帝以外の人からの帝に対する行為には謙譲語が使われているでしょうから、ここらあたりが主語判別の key になると考えられます。では順を追って主語を考えていきましょう。(1)「出で給ふ」=「宮中から実家へ退出した」のは更衣。単発の尊敬語が使われているので更衣でよいし、その直前の「留め奉りて」=「皇子を宮中に残して」は謙譲語が使われていますが、更衣から見て皇子のほうが位が上なので、ここの主語も更衣でよい、と考えられます。(2)「さのみもえ止めさせ給はず」では「さす+給ふ」という二重の尊敬語があるので主語は帝。それに続く「~いふかたなく思さる」まで主語は帝です。(3)「いと匂ひやかに美しげなる人の」は、小西先生が言うところの「並びの修飾」+「主格の」でこれは更衣のことだから、その後「~ものし給ふ」までの主語は更衣。ところがその後突然、(4)「御覧ずるに~宣はすれど」まで主語は帝に変わります。この部分には二重敬語はなくて単発の敬語ばかりですが、文脈から主語は帝と考えられます。そうして最後の部分ですが、(5)「御答へも聞こえ給はず」では謙譲語+尊敬語 となっていて、ここの主語は帝ではないから更衣ということになります。古文特有の「書かれないまま主語が次々と入れ替わっていく」現象が見られ、解釈の練習にはもってこいの文章です。率直に言わせてもらえば「これほど主語を書かないのはもはや病的」と言わざるを得ません。そうしてこの書かれない主語を補っていく作業こそが古文解釈の最重要ポイントであり、ここをクリアすることが古文の点数アップに直結するであろうと考えられます。これは恐ろしい作業で、一歩間違えば奈落の底です。

Her health was undermined by a disease.  Kiritsubo-Koi was determined to leave the Palace, letting her son stay there.  She was to go back to her patients' home for death rather than recovery from the disease.  Of course, the Emperor was very anxious about her, but He could not order her to stay there and could not even send her off for official reasons.  She, who was once brilliantly beautiful, became emaciated.  Although she held a deep sadness of bidding a last farewell to Him and her son, she was so deeply in a clouded consciousness that she could not utter anything to Him.  Seeing her glazed eyes, He tried to make lots of promises with her in a faltering voice.  However, she could not return any answer.

S先生:全体的に良いです。腕をあげましたね。第5文冒頭の She, who ~ というような「関係代名詞の先行詞として代名詞を使う形」は現代の英語では使われず、古い英文で使われます。たとえば、(He) Whom the gods love dies young.「神に愛された人は夭折する」、Those who shut their eyes to the past are blind to the present.「過去に眼をつぶる者は今のことも分からない」などの格言で使われることが多いようです。本文の場合は She ではなくて The lady くらいにするのが無難でしょう。

Kiritsubo-Koi, who had fallen sick, went home to her parents to prepare for death rather than (to) have her disease cared, leaving her Prince in the Court.  According to the Imperial traditional customs, He could not stop her from leaving the Court nor see her off.  He was deeply seized with an uneasy feeling.  Kiritsubo-Koi, who used to be fragrantly beautiful, was now worn out.  Though she wanted to bid a last farewell to the Emperor and the Prince, she had no courage to express it.  She was far from conscious.  Seeing her so depressed with grief, the Emperor, who was beside himself with grief, made various promises to her, but she was unable to reply at all.

オリジナル勉強風呂Gu 第701回 2023.2/16

古文研究法96-2 堤中納言物語より:(姫君の歌)子だにかくあくがれ出でば薫物(たきもの)の ひとりやいとど思ひこがれむ と忍びやかに言ふを、屏風のうしろにて聞きていみじうあはれにおぼえければ、児も返してそのままになむゐられにし。

姫君が「子供までもがこんなにソワソワと彷徨い出て行くのならば、薫物の火取りではないが、私独りでますますあなたのことを思い焦がれてしまうでしょう」と目立たぬように詠むのを、男は屏風のうしろで聞いてひどく感動したので、子供を姫君に返し、自分もそのまま姫君のところに腰を据えてしまいました。

N君:「あくがれ出づる」は「彷徨い出る」。「出でば」は「未然形+ば」なので仮定条件であり「もし~するのならば」です。前回に続いて今回も「書かれることなく主語が移り変わる」現象が見られるので解釈が難しいです。動詞の行動主体が誰なのか、注意深く見ていく必要があります。これができないと話の筋が見えなくなってしまいますから、とても大切なことです。古文難民のキモですね。

"If it would be not only you but also my son who goes out restlessly from my house, I would have been knocked down by lonliness. I might be burned to death by love for you like the incense burner."  He listened to her chant like this behind a folding screen and was moved by her true love.  He handed the boy to her.  Finally he came to stay permanently in her house.

S先生:第1文を仮定法で作文しようともがいている様子がうかがえますが、「子供が出て行くのは現実のことであって、実現不可能なことではない」、つまり仮定法を使うべき場所ではない、のです。したがってここは If not only you but also my son goes out restlessly from my house, I will be knocked down by lonliness. とします。普通の条件文で、前半の副詞節の内容は未来のことですが現在形で表現されています。中学生でも知っている普通の言い方で良いのです。第5文の he came to stay permanently in her house. の前置詞は in よりも at のほうが良いでしょう。

"If my boy leaves home with you in such a restless way, I will be put into such extreme distress as to go on longing for you by myself as hotly as an incense burns."  Deeply impressed to hear her chant a moving poem behind a screen, the man decided to return the boy to her and settle down at her house.

N君:先生の第2文後半の settle は desided に対応して settled とすべきだと思いますがいかがでしょうか?

S先生:なるほどそういう考え方もありますが、私としては decided to do の do のところに return と settle を持って来たつもりでした。ここはどちらもあり得るでしょう。

オリジナル勉強風呂Gu 第700回 2023.2/15

古文研究法96-1 堤中納言物語より:ある君達(きんだち)に、忍びて通ふやありけむ、いと美しき児(ちご)さへ出で来ければ、あはれとは思ひ聞こえながら、厳しき片つ方(かたつかた)やありけむ、絶え間がちににてありけるほどに、思ひも忘れずいみじう慕ふが美しう、時々はある所に渡しなどするをも、否(いな)なども言はでありしを、程経て立ち寄りしかば、いと淋し気にて、珍しくや思ひけむ、かき撫(な)でつつ見ゐたりしを、立ち留まら事ありて出づるを、ならひにければ、例のいたう慕ふがあはれにおぼえて、暫(しば)し立ち止まりて、「さらば、いざよ」とて、かき抱(いだ)きて出でけるを、いと心苦しげに見送りて、前なる火取りを手まぐりにして、、、、

ある姫君に ー こっそりと通ってくるがあったのだろう ー 大変可愛らしい子供が生まれたので、男はこの子のことをいとおしいとは思ったものの、ー 口やかまし本妻があったのでしょう ー とかく足が向かわないような具合であったそのうちに、この子が父のことを忘れもせずについて回るのが可愛くて、男は時にはこの子を自宅へ連れて帰ったりしたのだが、姫君は「いけません」などとも言わないでいた。ちょっと間があいて男が姫君の家を訪ねてみるとこの子は大変淋しそうにしており、ー 男は久し振りと思ったのであろう ー この子を撫でながら相手になって世話していたのだが、男にはいつまでも居られない事情があって帰ろうとするのに対して、ー 習慣になっていたのだろうが ー この子は男についていこうとするので、男はそれが可愛そうになってしばらく立ち止まって「それなら、さあ一緒に」と言って、この子を抱いて出た。姫君はそれをたいそう辛そうに見送りながら、前にある香炉をいじりながら詠んだ歌、、、、

N君:古文解釈のいやらしい所がギュギュっと詰まった一節で、ここは腰を据えてやっていきます。難しい単語などもいろいろあるのですが、そういう各論的な事柄よりも「書かれない主語がどんどん変わっていく」「挿入句(筆者のつぶやき)が突然割り込んでくる」のような、現代文ではあまりお目にかからない言い方、に慣れることが重要です。まずは挿入句が4か所に見られるのでピックアップしてみます。第1は「忍びて通う人やありけむ」で、ここでは「この姫君のもとへこっそり通う男があったのだろう」と筆者がつぶやいています。第2は「厳しき片つ方やありけむ」で、「男には口やかましい本妻があったのだろう」と筆者がつぶやいています。第3は「珍しくや思ひけむ」で、「男はこの子と会うのが久し振りと思ったのだろう」と筆者がつぶやいています。第4は「ならひにければ」で、「子が男を追いかけてくるのはいつものことだったのだろうが」と筆者がつぶやいています。挿入句では過去推量「けむ」が使われて句点で区切られていることが多いようです。さて次はどうしても避けて通れない「書かれない主語の移り変わり」です。通常、主語=行動主体 が誰なのかを判断するには動詞にくっついた敬語の程度で判断できるのですが、本文では、男、子、姫君、の上下関係がほぼフラットであるために、敬語がほぼ使われておらず、したがって敬語による主語の識別ができません。したがって「文脈 context で判断するしかない」という、非常に厄介な状況になっています。では本文における主語の移り変わりを追いかけてみます。(1)「出で来ければ」=「この姫君に子が生まれたので」の主語は「子」。(2)「あはれとは思ひ聞こえながら」=「男はこの子のことをいとおしいとは思ったものの」の主語は「男」。「思ひ聞こゆ」には謙譲語「聞こゆ」が使われているので、「男にくらべて姫君および子のほうが身分が幾分高い、と筆者が判断している」ということが想定されます。しかし敬語が使われているのはここだけなので、その身分の違いはほとんどないと見て良いと考えられます。(3)「絶え間がちにてあるほどに」=「男の女性宅への訪問が絶え絶えになっていた際に」の主語は「男の訪問」です。(4)「思ひも忘れずいみじう慕う」=「子が父であるこの男のことを忘れずに慕う」の主語は「子」。(5)「~が美しう」と思ったのは「男」。それに続いて「あるところに渡しなどする」=「その子を本宅に連れてくる」の主語も「男」。(6)「否なども言はでありし」=「そういう男の行動をダメだとは言わなかった」の主語は「姫君」。(7)「程経て立ち寄りしかば」=「しばらくして女の家に立ち寄った」のは「男」。(8)「いと寂しげ」だったのは「子」。(9)「かき撫でつつ見ゐたりし」=「子を撫でながら相手をしてやった」のは「男」。続いて「え立ち留まらぬ事ありて出づる」=「のっぴきならぬ用事があって女の家を出た」のも「男」。(10)「例のいたう慕う」=「いつものように男のあとを追いかけた」のは「子」。(11)「あはれにおぼえて」=「その子の様子をみていとおしいと感じた」のは「男」。続いて「暫し立ち止まりて、さらば、いざよ、とてかき抱きていでける」=「家をでようとしたが立ち止まって、それならさあ一緒に行こう、と言って子を抱き上げた」のも「男」です。(12)「いと苦しげに見送りて前なる火取りを手まさぐりにして」=「男のその様子をたいそう辛そうに見送りながら香炉をいじった」のは「姫君」です。このように、全く書かれないままに主語3種類が入り乱れている、ことがわかりました。このような文章は現代文では考えられないことで、古文の特殊性が色濃く出た一節だと思います。さて総論が済んだところでようやく各論に入ります。「君達」は男とは限らず、ここでは身分の高い女性を意味しているので「姫君」となります。文章のしょっぱなで、この「君達」を、若い公家の男、と解釈してしまうと、あとをどう頑張っても正しい解釈になりません。恐ろしいことです。「忍びて通ふ人」の「人」はどう考えても「男」です。女が通うわけがありませんからね。ここまで正しく解釈できれば物語の大枠をつかむことができます。「厳しき片つ方」=「口うるさい本妻」は難しいので脚注として与えてほしいところです。「ある所に渡し」=「男が子を本宅に連れてきて」も難しいです。これも脚注が欲しい。「珍し」は「久し振り」、「見ゐたりし」は「世話をしていた」、「え ~ 否定語」は不可能を表しています。「さらば、いざよ」は「それならばさあ一緒に」です。徒然草に「いざ給へ」=「さあ一緒に行きましょう」というのがありました。この一節は「古文とはこういうものだ」というのを自覚するために、僕を含む古文難民の人たちが、是非とも解読しておかなければならない重要な一節だろうと思いました。

There was a certain lady of high rank who was in secret love with a man.  She bore a pretty baby boy.  Although he loved it, he refrained from visiting her out of the presence of his regal wife.  But the baby did not forget his father.  He followed him anywhere he went.  Feeling pity for the innocent boy, he sometimes brought the boy to his residence.  The lady did not say any complaints against his act contrary to common sense.  When he visited her house after a considerable interval, he found that the boy was cheerless.  Out of a guilty conscience for his long absence, he cherished the boy caressing the boy's hair frequently.  After a while, he could not but go back owing to unavoidable circumstances.  The boy, as he always did, tried to follow the man.  Touched by his pitiful appearance, he stopped to say, "Will you go with me ?  Yes, O.K."  and stepped out embracing the boy with his arms.  Seeing them off with a bitter expression and fiddling with an incense burner in front of her, she composed a poem :

S先生:全体的な構成はとても良いですが細かい指摘を何か所かしておきます。第3文前半 Although 節の中で使われた it は前文の a pretty baby boy を指していますが、ここは him でもOKです。たしかに「男」と「子」が混在してしまうのですが、この場合は he や him が誰を指すか明らかでしょう。第3文主節後半の out of the presence of his regal wife「本妻の存在があったので」はいかにも硬い言い方で感心しません。for fear of offending his nagging wife「彼のガミガミ妻を刺激してしまうのが怖くて」くらいに変えましょう。第6文主節の brought the boy 「その子を連れてきた」はいけません。bring は物に対して使うのであって、人に対して使う場合は take を使いたい。第7文後半の against his act contrary to common sense「常識に反した男の行動に対して」は説明的過ぎていけません。こういうところは簡潔に against him で充分だと思います。

A certain lady, whom some man often visited secretly, gave a birth to a cute baby.  He wanted to go to see him, he was obliged to refrain from doing so because his wife was a very nagging woman.  But the child remembered him very well as his father and followed him whenever he visited him.  How cute he was !  The man sometimes took him home, but the lady never said, "Please don't take my boy to your house."  When he visited her house after a while, he found that he had missed him very much.  Patting him tenderly, he played together with him.  But when he was going home for some reason, the boy would follow him as usual.  Feeling sorry for him, the man stopped and held him firmly in his arms, saying, "Now, let's go together."  Seeing them off painfully and fiddling with an incense burner in front of her, the lady chanted a poem :

N君:先生の第6文 he(子) had missed him(男) はどういう意味ですか?

S先生:子は男が居なくて寂しかった、の意味です。miss のこのような意味には注意が必要です。研究社の辞書には He wouldn't miss $50.「あいつなら50ドルくらいなんとも思わないだろう」という例文が出ていました。

N君:先生の第8文主節 the boy would follow him に使われた would はどういう意味ですか?

S先生:子はどうしても男についていこうとした、の意味で「強い意志」を表しています。「固執の will」ですね。こういうところを見抜けるようになっているということは、進歩の証です。

オリジナル勉強風呂Gu 第699回 2023.2/14

古文研究法95-2 徒然草137段より:椎柴(しひしば)・白樫(しらがし)などの濡れたるやうなる葉の上にきらめきたるこそ、身にしみて、心あらむ友もがな、と都恋しう思(おぼ)ゆれ。すべて月花をばさのみ目にて見るものかは。春は家を立ち去らでも、月の夜は閨(ねや)のうちながらも思へるこそ、いとたのもしうをかしけれ。

椎の木や白樫などの濡れたように光沢のある葉の上に、月光がキラキラしている景色を見るとその素晴らしさが身にしみて、情趣を解する友人がいたらいいなあ、と都が恋しく思われる。いったい月や花をそんなに目ばかりで見るものなのかね。春は家から出掛けなくても、秋は月の夜に部屋に居るままでも月や花の情景を心に描くことこそが興趣に富んで面白いのだ。

N君:「きらめきたる」という連体形が曲者です。何がきらめいているのか? 前回からの続き具合をかんがえれば、月、です。だからここは「月がキラキラしている景色」です。「もがな」は願望の終助詞で「~だったらいいなあ」の意。「かは」は反語なので「~だろうか、イヤイヤそうじゃない」の意。「思へる」の「る」は自発の助動詞「る」連体形と考えられ「自然と心に浮かぶこと」の意。ここで問題なのは何が心に浮かぶのか? ということ。話のつながり具合から「月や花を実際に眼で見るのではなくて心で思うこと」となるのでしょう。

When you see the moon shining on the wet and glossy leaves of chinquapins or white oak trees, you are very impressed by the wonderful scene and long for a sensible friend in Kyoto.  Why on earth should you appreciate the moon or flowers only by means of your eyes ?  Although not stepping out from your house to enjoy flowers in spring, and although staying in your room on a moonlight night in autumn, you can imagine their beautiful features.  The indirect appreciation is what I recommend.

S先生:全体の主語を「一般の you」でまとめたのは良かったです。このようにまとめるとグッと英語らしくなりますね。第3文前半の分詞構文にくっついた Although ふたつは堅苦しい感じがするので除外しましょう。これがなくても譲歩の分詞構文だと充分分かります。第4文の what I recommend もやや自己顕示的な感じがするので to be most recommended くらいに変えてみてはどうでしょうか。

You might be sick for Kyoto, wishing you had a friend who can appreciate how beautiful the moonlight is when it shines brightly on the wet and shiny leaves of chinquapins and white oaks.  Do you think you should enjoy the moon and flowers only with your eyes ?  You can imagine their glorious features in your mind even if you stay at home in spring and in your room on a moonlight night in autumn.  Nothing will make you more interested and attracted than this way.

N君:先生の第1文の分詞構文で wishing you had a friend who ~ は仮定法過去?

S先生:今現在、情趣を解する友人は居ないわけですが、もし居るならばそういう友人を持ちたいものだ、と述べているのです。だからここは have ではなくて had になっています。ご指摘の通り「仮定法過去」になります。

オリジナル勉強風呂Gu 第698回 2023.2/13

古文研究法95-1 徒然草137段より:望月のくまなきを千里の外(ほか)まで眺めたるよりも暁近くなりて待ち出でたるが、いと心深う青みたるやうにて、深き山の杉の梢に見えたる木(こ)の間(ま)の影、うちしぐれたるむら雲がくれのほどまたなくあはれなり。

満月が千里の向こうの方まで明るく照らしているのを眺めるよりも、明け方近くになって待ちに待っているうちにやっと出たがたいそう趣き深く青白い感じで深山の杉の梢にかかっている木の間ごしに光を放っていたり、あるいはさっとひとしきり降ってゆく時雨の雲に姿を隠したりなんかする景色の方が、とりわけ趣き深い。

N君:「望月の~たる」というのは古文でよくある言い方で「満月で~した状態の月」の意。このような連体形には注意が必要です。「~のほど」というのは「月が(1)青白い感じで(2)木の間から光を放っていて(3)雲にかくれたりする、そういう状態」の意味です。訳文では「月が(1)(2)(3)している景色」と訳しています。「またなく」は「とりわけ」。

You will like to see the fullmoon shining brilliantly through the land a thousand miles away from here.  But more tasteful is the pale moon which emerges finally before daybreak after you have been waiting for its rising.  More elegant is the moon which glitters through the branches of cedar trees growing on a high mountain.  More attractive is the moon which disappears behind clouds flowing away after a temporary dizzle.

S先生:第1,2,3,4文すべてに言えることですが moon の定冠詞がどうなのか? と思いました。月の色々な状態のひとつひとつについて述べているので、定冠詞よりも不定冠詞にしたい、と思いました。第2,3,4文では、主部が長いので後置して述部を前に持って来たのは大変良かったです。さてでは各論に入りましょう。第1文の through はちょっと違うと思います。普通の感覚ではここは on でよいのでしょうが、onto の方が動きが感じられてより良いと思います。文末の from here はクドイ感じがするので思い切って除外しましょう。第3文の growing on もちょっと大仰なので簡潔に in にしてしまいましょう。同じ理由で第4文の flowing away も除外したいと思いました。

It makes you happy to see a fullmoon shining brightly to the end of the land.  But you will feel more attracted when you watch it before dawn after you have been waiting for long.  Above all, you will be more fascinated when it shines palely through the tops of the cedar trees in a deep moutain, or when it hides itself into the clouds after a short drizzle.

オリジナル勉強風呂Gu 第697回 2023.2/12

古文研究法94 源氏物語夕顔より:暁(あかつき)近くなりにけるなるべし、隣の家々あやしき賤(しづ)(を)の声々、目覚まして「あはれ、いと寒しや。今年こそ生業(なりはひ)にも頼む所少なく田舎の通(かよ)も思ひかけねばいと心細けれ。北殿こそ、聞き給ふや」など言ひ交すも聞こゆ。

明け方近くになっちゃったのであろう、隣の家では身分の低い男どもが目を覚まして大きな声で話しており、「やれやれどうも寒いことだのお、今年は商売もあんまり見込みがねえし、田舎回りもする気がしねえので、たいそう心細いことだわい、北隣どん、お聞きですかい?」なんで話しているのが聞こえる。

N君:「あやし」は「身分が低い」「下賤な」の意。「田舎の通い」は字面では「田舎を行ったり来たりすること」ですが、この賤男は何かの商売でアチコチの田舎でものを売っているのかもしれません。それで「営業活動としての田舎回り」と理解しました。「こそ」は普通は係助詞ですが、「北殿こそ」の「こそ」は「~さん」と呼びかける意味です。

It has been toward daybreak.  In the house next door lowly men woke up, saying loudly, "Ah, it is cold.  To my regret I won't be able to rely on the income from my business this year.  I am not inclined to call on clients in rural regions.  I feel uneasy.  Hey, you next door to the north, can you hear my complaints ?"  I could catch this kind of a mean conversation.

S先生:第2文冒頭の In the house next door lowly men woke up, に少し違和感があります。普通に A lowly man next door woke up, で何の問題もないと思います。第6文の呼びかけ部分 you next door to the north「北方向のお隣さん」ですが、家と家がくっついている北隣ならば「接触」を意識して to ではなくて on にするのが良いでしょう。第7文 I could catch this kind of a mean conversation. でも分からなくはないですが、何となく硬いし could がいけません。can の単純な過去形としては was able to を使う方が良くて、could だと仮定法のことを考えなくてはならなくなり誤解を生む可能性があります。そもそもこの文に can の意味が必要でしょうか? 普通に I heard him speaking to his neighbor meanly like this. で充分でしょう。

Day is going to break.  A lowly man next door woke up and said in a loud voice, "How cold it is this morning !  It does not seem that my job will go well this year.  I am in no mood to go to the country to sell my goods."  And he dared to ask his neighbor on the north, "Hey, you, can you hear me grumbling about my work ?"

N君:先生の第5文に「接触の on」が出ました。