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文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第552回 2022.9/20

古文研究法14-2 枕草子ひぐらし、ぬかづき虫、またあはれなり。さる心に道心起こしてつきありくらむ。思ひかけず暗き所などにほとめきたる、聞きつけたるこそをかしけれ。

蜩、ぬかづき虫にもしみじみ感動させられる。こんな者の心にも佛道を願う気持ちが湧き上がって、いつも頭を下げて歩き回っているのだろう。意外にも暗い所なんかに目立たずに小声で鳴いているのを聞きつけたりしたら実に興味深い。

N君:「ほとめく」は「小さな声で鳴く」の意です。連体形で読点が打たれているので「虫が小声で鳴いているのを」と訳して、次に来る「聞く」の目的語にする要領です。昔やった源氏物語桐壺の出だし部分「いづれのおほん時にか、女御更衣あまたさぶらひ給ひける中に、いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれてときめき給ふ、ありけり」の「すぐれてときめき給ふ」という連体形が、それに当たります。ここは「帝の御寵愛がとても篤い女性が」というふうに訳しました。

I am deeply moved by such worms as higurashi and nukazuki-mushi.  I suppose that even these trivial insects are so inspired by the teachings of Buddha that they are always wandering with their heads rubbed on the ground.  When I happened to hesr them chirping humbly in a dim place, I am very interested in their ephemeral demeanour.

S先生:日本語をそのまま英語として使った場合にはその名詞は不可算として取り扱う、という前回の注意を今回はちゃんと守っていただきました。蜩やぬかづき虫に、不定冠詞をつけたり複数形にしたりしてはいけません。さて第3文の主節 I am very interested in their ephemeral demeanour ですがなんだか取って付けたような曖昧な感じを受けてしまいます。ephemeral = evanescent「儚い」、demeanour「その場の空気、雰囲気」というのはかなり凝った単語を使ってきたなあ、という印象です。もし ephemeral を生かすとすれば I am made to feel their lives so ephemeral. でしょうか。こうすると原文から離れてしまうような気もします。

Evening cicadas and nukazuki also move me so deeply.  They must be walking around with their heads down, aspiring for the teachings of Buddha.  Strangely enough, I feel very interested when I happened to hear them chirping quietly somewhere in a dark place.

オリジナル勉強風呂Gu 第551回 2022.9/20

古文研究法14-1 枕草子:虫は鈴虫。松虫。はたをり。きりぎりす。てふ。われから。ひを虫。蛍。みの虫、いとあはれなり。鬼生みたれば、親に似てこれも恐ろしき心あらむとて、親悪しき衣(きぬ)ひき着せて「いま秋風の吹かむ折にぞ(こ)むずる。待てよ」と言ひて逃げていにけるも知らず、風の音聞き知りて「ちちよ、ちちよ」とはかなげに鳴く、いみじうあはれなり。

虫は鈴虫・松虫・機織り・キリギリス・蝶・われから・ひお虫・蛍などが興味深い。蓑虫は大変心を動かす。鬼生んだので親(鬼)に似てこれも恐ろしい心があるだろう、というので、親(鬼)粗末な着物を着せて「そのうち秋風が吹く頃にきっと来てあげるから待ってろよ」と言って逃げてしまったのも知らず、風の音を聞き分けて10月頃になると「父よ、父よ」とたよりなげに鳴くのが、大変心を動かすのです。

N君:「来むずる」は「来むとする」を鬼がやや下品に言ったセリフです。少なくとも清少納言が生きた1000年代=11世紀 には「むとす」の下品な言い方としての「むず」があったようです。

Among insects are pretty such ones as a bell criket, a pine criket, a hataori, a grasshopper, a butterfly, a warekara, a hiomushi and a firefly.  I am especially attracted by a bagworm.  This worm is said to be born from demons and to have such a frightening heart as the parent's.  Therefore the father demon made this worm wrapped in a badly weaved cloth, persuaded it into waiting for him until an autumn wind would blow, and ran away with it left alone.  Not noticing the coldhearted treatment by its father, it evanescently cries, "Father, where have you gone ?", when it feels the cold wind in October.  I am very touched by the weakness of this worm.

S先生:よく書けていますが一つだけ小言があります。日本語をそのまま英語として使う場合は不可算名詞として扱います。たとえば one hundred dollars とは言っても one hundred yens とは言いません。円をそのまま英語に使った yen は不可算名詞なので one hundred yen となるのです。N君の第1文に使われた hataori, warekara, hiomushi の3語は日本語をそのまま英語として使っているので不可算名詞として扱うべきであり、よって不定冠詞を除外すべきです。cricket とか grasshopper とか butterfly とか firefly には不定冠詞を付けても、hataori, warekara, hiomushi は裸のままにしておくべきです。crickets などと複数形として表現する場合も hataori, warekara, hiomushi はそのままです。英語のちょっとややこしい所ですね。

Among insects, I love bell crickets, pine crickets, hataori, grasshoppers, butterflies, warekara, hiomushi and fireflies.  Above all, bagworms move me very much.  They were born of devils, and so their parents believe that their children must have evil spirits just like theirs, and make them wear ugly clothes, saying, "We will surely come to meet you when an autumn wind begins to blow."  Not noticing that their parents have run away, when they sense an autumn wind blowing in October, they chirp sorrowfully, "Father, Father !  Why have you left me alone ?"  I cannot but be deeply touched to hear them chirping delicately.

オリジナル勉強風呂Gu 第550回 2022.9/19

古文研究法13-2 枕草子:「いかやうにかある」と問ひきこえさせ給へば、「すべていみじくはべり。さらにまだ見ぬ骨のさまなり、となむ人々申す。まことにかばかりのははべりざらざりつ」と言(こと)高く申し給へば、「さては扇のにはあらでくらげのななり」と聞こゆれば、「これは隆家言にしてむ」とて笑ひ給ふ。

定子様は「さてそれはどんな扇なの?」と御下問あらせられたので、隆家様は「この扇は骨組みも紙もたいそう立派なものです。これまで見たこともないような骨の様子だと皆が言っておりますが、まことにこれほど立派な骨組みはこれまでありませんでした」と大きな声でおっしゃった。そこで私(筆者=清少納言)は「見たこともない骨ならそれは扇の骨じゃなくてクラゲの骨ですね」と申し上げたところ、隆家様は「その洒落は私の発明にしておいてくれ」と言ってお笑いになった。

N君:見たこともない骨ならクラゲの骨ですね、と清少が戯れたので、隆家が、その気の利いたセリフは自分が言ったことにしておいてくれ、と戯れ返した、というお話でした。枕草子には、このような清少の自慢話が多いように見受けられます。「聞こゆ」は「言う」の謙譲語、「隆家が言」の「が」は格助詞で、現代語では主格のみに使われるのに、古文ではこのように連体格でも使われます。これについて小西先生が面白い話を紹介していました。隆家が自分のセリフの中で「隆家が言」と発言した「が」には幾分へりくだった感情があり、もし「隆家の言」だと卑下の感じがなくやや尊大になる、とのこと。現代ではその感覚は消えてしまっていますが、少なくとも平安~鎌倉の頃には連体格の「が」に卑下の感覚が宿っていた、とのことです。

Chugu Teishi said to him, "I am interested in how the fan looks."  Lord Takaie answered in an encouraged tone, "This fan is very fine in both the frame and the paper.  They say they have never seen such a fine fan as this.  I really think so, too."  Therefore I cut into the conversation, "The frame which nobody has seen until now may not be one of a fan, but a bone of a jellyfish."  The moment he heard my joke, he replied with a smile, "I hope you will let the witticism be the remark I have thought up !"

S先生:今日の作文はとても良いです。特に小言はありません。

Her Excellency Teishi asked him how the fan looked.  His Excellency Takaie said in a happy and lod voice, "The frame of this fan is made of fine bamboos and the paper is of high quality.  Those around me say that they have never seen so fine a fan as this.  It is exactly as they say.  This is the most excellent fan I have ever seen."  Then I broke in, "Since you say so, it must be made not of bamboos but of jellyfish's bones."  Hearing my joke, Lord Takaie said, laughing, "I will be very happy if you will permit me to think that it is a witty remark of my own making."

N君:先生の作文の最後のところですが、it is a witty remark of my own making は it is a witty remark which I made ということですか?

S先生:そうです。of my own ~ing 「自分で~した」は関係代名詞を使うより軽いのです。This is a story that I wrote. と書くより This is a story of my own writing. とするほうが軽くて好まれます。

オリジナル勉強風呂Gu 第549回 2022.9/18

古文研究法13-1 枕草子中納言まゐらせ給ひて御扇たてまつらせたまふに「隆家こそいみじき骨を得てはべれ。それを張らせてまゐらせむとするを、おぼろけのはえ張るまじければ、求めはべるなり」と申し給ふ。

中納言隆家様(中宮定子の実弟)がおいでになって定子様に扇を献上申しあげる際に「私はこのたびたいそう立派な扇の骨組みを手に入れました。その骨組みに紙を張らせて姉上に献上するのですが、ええ加減な紙を張ることはできないので良い紙を探して張り付けました」と申し上げた。

N君:形容動詞「おぼろけなり」は「いいかげんな」の意です。武勇で名高い隆家が姉定子を訪問した時のエピソードを定子のサロンにいた清少納言が記録した、ということなのでしょう。

Chunagon Takaie came to present a fan to his elder sister Teishi, saying, "I have got a wonderful frame of a fan on which a piece of paper was not stretched yet.  I thought that when I gave you a completed form I couldn't use a plain paper.  So I have sought a good paper to have it banded to the frame.

S先生:短い作文でしたが小言が3個もあります。第1文の stretched は 、ただ広げるだけの意味になってしまうので「貼り付ける」の意味で pasted にするほうが通じると思います。第2文は全体として分かり難い。「完全な形の扇を献上する時には普通の紙は使えないと思った」と作文しているのですが、隔靴搔痒の感あり、です。I will be rude to you if I give you a fan of coarse paper. くらいにするのが分かり易いと思います。第3文は a good paper です。paper は基本的に不可算名詞であって、不定冠詞を付ければ a morning paper「新聞」、複数形にすれば some important papers や identification papers のように「書類」の意となり、一般的な「紙」の意ではなくなってしまいます。よってここでは不定冠詞を除外して good paper とするのが良いでしょう。

When Chunagon Takaie visited his older sister Teishi to give her a fan, he said, "I have got a very fine frame of a fan.  But it will be rude of me if I present you with a fan of coarse paper, so I have sought paper of fine quality to have it pasted on the frame by a skillful artisan.

N君:最後のところの by a skillful artisan をくっつけたのは何故ですか?

S先生:have it pasted on the frame の構文を強調する目的でこのようにしました。こうすると「弱い使役動詞 have の構文」が生きるように思ったのです。訳文にないものを付け加えるのは気が引けるのですが、ここでは by a skillful artisan があったほうが良いと考えました。

オリジナル勉強風呂Gu 第548回 2022.9/17

古文研究法12-2 土佐日記:持て来たる物よりは歌はいかがあらむ。これかれあはれがれども一人も返しせず。しつべき人も交われれど、これをのみいたがり物をのみ食ひて夜更けぬ。この歌主「まからず」と言ひて立ちぬ。

持ってきたごちそうに比べると歌の出来はどんなものかしらね。この歌をそこに居合わせた誰彼は褒めはするものの誰一人として返歌しない。返歌していいはずの人も同座しているのだが「こりゃどうも結構な歌で、、、」と言うばかり。ごちそうを頂戴するばかりで夜も更けてしまった。この歌主もまた「おいとましましょうかな」と言って座を立った。

N君:貫之の送別会にやって来て下手な歌を詠んだ男の話の続きです。「まからず」は「まからむず」つまり「まからむとす」なので、おいとましましょうかな、の意になります。この「ず」は打消し助動詞のように見えるのでややこしいです。

I was suspicious of whether his poem was more wonderful than the fine feast he had brought.  Everyone who happened to be there complimented him on his way to make the poem, but no one returned a single answer poem to him.  Even a man who was supposed to play a role as a returner made the slightest response by just praising the poem superficially.  All he did was to eat the food and to make a single comment, "Oh, your poem is so good、、、."  Meanwhile it had grown very late.  Feeling a chill cast over the gathering, the poor poet went out, leaving a sad remark, "It's about time to back."

S先生:うーん構成は良いのですが今日は色々と小言があります。第2文の his way to make the poem が堅苦しい。単に his wonderful poem でよろしい。あるいは his way of writing a poem くらいなら可でしょう。とにかくこのままでは重いのです。同じく第2文後半の answer poem は和製英語のように思えますので単に poem にしましょう。第3文の play a role as a returner堅苦しい。ここは reply to it くらいで軽く流しましょう。第6文前半の分詞構文 Feeling a chill cast over the gathering, はおそらく「座を覆う冷たい視線を感じて」という意味で作文したのだろうと思いますがこれも説明的過ぎると思います。Feeling a chill atmosphere, くらいで充分と思います。後半の分詞構文 leaving a sad remark, " ~." も少し変です。leave は目的語を一つしか取りません。このままだと SVOO の授与動詞のように見えてしまいます。よってここは saying sadly, "~." とするのが軽くて良いでしょう。第6文末の動詞 back には「帰る」という意味はありません。back は他動詞としては「後援する」、自動詞としては「あとずさりする」の意なのです。よってここでは素直に go back としましょう。今日はいろいろ言いましたが最も大切なことは「軽く流せばよい所で凝ってはいけない」ということです。特に分詞構文というものは「主節に軽く添える」という趣旨の文体なのですから、そこがコテコテしていてはいけないのです。

I wondered which was better, his gorgeous dinner or his poem.  Those who happened to be there praised him for his poem intentionally, but none of them would not reply to it.  A man who ought to reply sat with him at a farewell party for me, but he did not say anything but pretend to admire him.  While they were just enjoying the delicious meal, the night was far advanced.  The poor poet also got up from his seat, saying, "I am sorry I must be going now."

授与動詞の話がちょっと出ました。第4文型SVOOを作る動詞、たとえば give です。その受動態についてちょっと触れておきましょう。He gave me a book. を受け身にしたい時、I を主語にする構文、A book を主語にする構文が考えられます。自然なのは後者であり A book was given to me by him. は古くラテン語に由来する構文と言われています。一方 I was given a book by him. は新しく英語で発達した構文だそうでちょっとだけ人工的な感じがしませんか? 現在ではこのふたつとも普通に使われています。もうひとつ例を見てみましょう。They offered him the position.  を受け身にすると、The position was offered to him. は自然なのですが、He was offered the position. のほうは何か人工的なものを感じます。さて前振りはここまでとして、She wrote him a long letter.  を受け身にしてみましょう。まず A long letter was written to him by her. という受け身文はOKです。一方 He was written a long letter by her. はダメなのです。つまり write は確かに第4文型を作る授与動詞ではありますが、受け身型の一方(間接目的語を主語にもってくる形)が例外的に不成立だ、というふうに理解しておいてよいでしょう。英語も深く分け入っていくといろいろなことがあるものです。

N君:中学生のころから違和感を持っていたことが一つ解決された思いがします。

オリジナル勉強風呂Gu 第547回 2022.9/16

古文研究法12-1 土佐日記:かくてこの際(あひだ)に事多かり。今日(けふ)破籠(わりご)持たせて来たる人、その名なぞどや今思ひ出でむ、この人、歌詠まむと思ふ心ありてなりけり。とかく言ひ言ひて「浪の立つなること」と憂へ言ひて詠める歌「行く先に立つ白浪の声よりもおくれて泣かむ我やまさらむ」とぞ詠める。

さてこの期間にいろんな事があった。今日、従者に破籠を持たせて来た人 ー 名は何といったかそのうち思い出すだろうが ー この人は歌を詠んでやろうという気があってやって来たのだった。それからそれへとしゃべった後「浪が立ってますな」と心配したような事を言って詠んだ歌が傑作でした。「これから先の航路に立つ白い浪の音よりも、取り残されて泣く私の声のほうが大きいでしょう」。そりゃ大変な大声だね

N君:土佐赴任の任期を終えて都へ還る紀貫之を送別する宴にやって来て下手な歌を詠んだ男の話です。訳文の最後に付け加えられた「そりゃ大変な大声だね」は貫之の心の声でしょう。貫之を見送りながら土佐に残る自分の悲しみを歌ったものでしょうが、声の大きさという雅でないものを表に出したことに対する、貫之の皮肉が表われています。破籠は弁当などを入れる籠の意です。

Various things occurred during this period.  The man who came here today having his servant carry a basket filled with foods for a banquet ー his name will float up on my memory although I cannot recall it now ー seemed to have come here in order to show off his poems instead of bidding farewell to me.  After talking about miscellaneous things, he abruptly said as if he had misgivings about my voyage, "The waves are somewhat high."  Then he composed a poem :  'You are about to embark on your travel with leaving me alone.  The cry of my sorrow will be louder than the white waves stirred up by your ship.'  Oh, what a noisy wail you will make !

S先生:なかなか良い出来ですがふたつほど指摘があります。まずは第2文の foods ですが、この単語は基本的に不加算名詞と考えていてよいかと思います。natural foods「自然食品」のような言い方もありますが、数えるときは普通は a piece of food のような言い方をします。この第2文では nice food くらいにしておくのが良いと思います。次は第6文の You are about to embark on your travel with leaving me alone. の with を除外して下さい。with は付帯状況を作るのであって分詞の前に置くことはありません。付帯状況の例を示しておきます。Don't speak with your mouth full. (形容詞)。She fell asleep with her clothes on. (副詞)。He sat with his eyes closed. (過去分詞)。With night coming on, we started for home. (現在分詞)。

Various things happened to me during this period.  A man visited me today having his servant carry a dinner basket.  I have forgotten his name but will recall it sooner or later. His intension seemed to compose a poem for me.  After he had talked about one thing after another as if it were painful for him to part from me, he said with an anxious look, "The waves are very high, aren't they ?"  And he chanted, "My tearful voice is much louder than the sound of the white waves heard on your boat offshore, for I will be left alone."

貫之の ironical な最後の一文は表面には出ていないので、私の作文にはあえて入れませんでした。読者に察して欲しいというわけです。

 

オリジナル勉強風呂Gu 第546回 2022.9/15

古文研究法11 紫式部日記:御文に書きつけはべらことを、良きも悪しきも、世にあること、身の憂へにても、残らず聞こえさせ置かまほしうはべるぞかし。(け)しからぬ人思ひきこえさすとても、かかるべい(=き)ことはべる。されど徒然におはしますらむ、また徒然の心を御覧ぜよ。また思(おぼ)さむことの、かう益(やく)なしごと、多からずとも書かせ給へ

お手紙に書き表しきれないことを ー それが良い事でも悪い事でも世の中の出来事でも自分事で訴えたい事であろうとも ー すべて申し上げようと存じます。立派な方(あなた)をお慕い申し上げますのに、こんなはずのこと(何でも言ってしまうという態度)のことがございましょうか、いやそんなことはありませんよね。だけど今頃あなたはすることもなくいらっしゃいましょう、私の手持ち無沙汰な気持ちもお察し下さいませ。あなたのお考えになりますようなことで、こんな風なとりとめのないことがありましたら、少しでも結構ですからどうぞ書いてよこして下さいませ。

N君:「え~否定語」は不可能を表します。「憂へ」は訴えたい事。「けしからぬ人」は現代なら悪い意味ですが、昔は逆で「変ではない人」=「立派な人」です。反語の「や」を見落とさないように注意です。徒然は「手持ち無沙汰ですることがない退屈な状態」で、前半はわたし(=作者=紫式部)の徒然、後半はあなた(式部さんが慕う男)の徒然です。最後の「せ給へ」は「尊敬助動詞+尊敬補助動詞二重敬語」なので、地の文であれば主語は天皇に限られるわけですが、これは手紙文(会話でも同様)なので、天皇でない人でも使って構いません。たいていはこちらから手紙を書いている相手が行動主体=主語 になっています。尊敬語「聞こす・聞こしめす」は「お聞きになる」の意ですが、謙譲語「聞こゆ・聞こえさす」は「申し上げる」の意です。本文に登場する「思ひきこえさす」の「きこえさす」は謙譲の補助動詞です。こんなややこしいものは試験には出ないだろう、と高をくくっていたのですが、2003センター試験追試に出題されました。油断もスキもありません。

I am going to reveal completely what can hardly be written in my letter.  Things I intend to write down here will contain miscellaneous happenings about , favorable or evil, the world and my trivial complains.  Of course I know that it might be inappropriate for me to express myself frankly to such a great man as you.  But I imagine that you also have nothing to do now, which will enable you to notice my boring days.  I want you to send me a letter which contains any kind of wandering, insignifficant and incoherent grumbles just like mine.  Even a bit of your idleness, I like to know.

S先生:うーん、紫式部さんの文章は回りくどいですね。それを上手に英訳しているとは思いますがやや堅苦しい感じを受けます。特に第4文の後半は堅苦しい。which will enable you to notice my boring days はいかにも硬いので and so you will notice what boring days I am leading くらいにしてはどうでしょうか。また最後の第6文では、強調のため目的語を前に出してカンマで区切った後にSVを持ってきたわけですが、このカンマは不要です。単にSVOをOSVとしただけなのですからカンマは要りません。

I am going to inform you of all I would like to : what I can't express well in my letter, things about worldly affairs and about my triffles, whatever they are good or bad.  I long for you as a respectable person.  Wouldn't it be rude of me to take such a frank attitude toward you ?  Nowadays I don't know how to spend my free time.  I suppose you will also be boring with nothing to do.  I will be happy if you notice how heavily time hangs on me.  I will appreciate it very much if you will write to me what you are thinking every day.  Anything will do, however rambling or trifling it may be.