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文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第338回 2022.2/19

帚木132・133:(左馬頭)「さてまた同じ頃、まかりかなひし所は、人もたちまさり、心ばせ、まことにゆゑありと見えぬべく、うち読み走り書きかいひく爪音手つき口つき、皆たどたどしからず、見聞きわたり侍りき。見る目も事もなく侍りしかば、このさがな者をうちとけたる方にて、時々隠ろへ見侍りし程は、こよなく心とまり侍りき。

中将の言葉に勇気付けられたか、左馬頭の経験談はまた別の女の身の上へと移っていく。「さてさてまた同じ頃、私めが通っておりました女は、さっきの指食いとは違って、人品卑しからず、心映えもまことにひとかどあるという女性で、歌をさらさら詠み、字も巧みに走り書きするし、琴弾く手つき爪音もなかなか、手といい口といいみな達者なもので、いつも感心して見聞きしておりました。しかもけっこうな美形(難点がなくて好ましい女)でもあったので、かのヤキモチ女(指食い女)の家を気の置けない所として通う一方で、こちらの女にもこっそりと逢っておりました。で、二股をかけているうちは、この女に相当心惹かれていたのです。

N君:可哀そうな運命をたどった指食い女の話の後に、こういう別の女の話を持ち出すとは、左馬頭の感覚を疑いますが、これが当時の一般的状況だったのでしょう。

Encouraged by Chujo's admiration, Samanokami became more eloquent to move on to his another experience.  "To resume the thread of my talk, I had another woman then, who was completely superior to the 'finger-biting woman' in many aspects.  There was something noble about her.  She had a considerably good disposition.  Having had no trouble in composing an elegant poem, writing beautiful letters and playing Koto with attractively placticed hands, she was so good at all arts that I was always charmed by all her skills.  In addition to that, she was a quite beautiful lady.  While frequently visiting the house of of the jealous 'finger-biting woman' as a place where I didn't have to take care, I used to visit her secretly, too.   It was true that I was quite absorbed in her charm when I dealt with the two women simultaneously.

S先生:第1文末の his another experience はいただけません。たとえば「私のこの本」と言いたい時、my this book とか this my book はダメで this book of mine が正しい。ゆえにこの場面では another experience of his となります。第2文冒頭の To resume the thread of my talk「私の話をもう一度始めますと」という副詞句のフリはとても感じが出ていて好感が持てます。thread は糸ですね、こういう言い方があるのでしょうね、こちらが勉強させてもらいました。第3文前半の分詞構文ですが、easily, beautifully, excellently のような副詞を連ねるほうが文の恰好がつくと思うので、Composing an elegant poem easily, writing letters beautifully, and playing the Koto excellently, と変えてみましょう。この方が簡潔ですし、なんと言っても軽いですからね。

Encouraged by Chujo's words, Sama-no-Kami began to talk about his experience with another woman.  "At about the same time, I was visiting another woman.  She was quite different from the one who had bitten my finger.  She was personable and kind-hearted.  She composed poems easily, scribbled letters skillfully and played the Koto beautifully.  I was impressed by her adroitness in every art.  And her looks were perfect.  While calling on the jealous woman with no reserve, I went to see the tender woman in secret from time to time.  I was more attracted to the latter when I was visiting both women.

N君:scribble「走り書きする、殴り書きする」、adroit=skillful「器用な」、with no   reserve「遠慮なしに」

オリジナル勉強風呂Gu 第337回 2022.2/18

帚木128・129・130・131:中将、「そのたなばたの裁ち縫ふかたをのどめて、長き契りにぞあえまし。げにその竜田姫の錦には、またしくものあらじ。はかなき花紅葉と言ふも、をりふしの色あひつきなく、はかばかしからぬは、露のはえなく、消えぬるわざなり。さあるにより、かたきとは、定めかねたるぞや」と、言ひはやし給ふ。

中将は「その七夕の織姫の腕前の方がもう少し下がってもいいから、その分、七夕の逢瀬のように長い契りを全うする、というふうにいきたかったね。また確かに、その竜田姫の錦や紅葉の色彩には勝るものもないけれど、それだって時には色合いがよろしからず、下手くそに染めた時には色の映えもなく消えてしまうことがありましょう。だからね、妻選びはつくづく難しいと、議論が定まらぬわけなのでしょうかね」などと、うまいことを言い囃す。

N君:左馬頭以外の人のセリフを久し振りに聞きました。古語辞典によると「世」にはいろいろな意味があり、その中のひとつに「男女の仲、夫婦仲」というのがありました。そこから派生して、林望先生著「謹訳源氏物語」では文脈に合わせて「妻選び」というふうに訳されているのでしょう。

Chujo added a whitty comment, "I don't mind if her skill to weave cloth is inferior to Orihime's, but I hope the tryst with her would succeed like that with Orihime in the ancient tale.  It may be true that she had a splendid ability to dye cloth, which was equal to Tatsuta-hime's , but I suppose she was not always good at the work.  There would be some occasions when the cloth's texture was bad or the vividness was about to vanish.  After all, what I want to say is that choosing a wife from many women is quite difficult.  Concerning this question, we never have a definite conclusion."

S先生:今日はだいたい良いのですが3か所だけ小さな指摘をさせてもらいます。第1文の Chujo added a whitty comment, "、、、" という構成を見て何かおかしいと思いませんか? 他動詞 add の目的語が、comment および "、、、" のふたつになってしまっているのです。added whitty, "、、、" とすれば、簡潔になった上に文法的にもスッキリするでしょう。第2文末の in the ancient tale は説明的すぎるので除外するほうがよいと思います。第5文の choosing a wife from many woman の前置詞 from ですが、こういうところは今後是非とも from amang というふうにして下さい。この形は二重前置詞の典型的な用例です。今回のN君の作文は、私の作文と比べて、内容の解釈が一部異なってはおりますが、英文としての間違いはほとんどなくて、立派な出来だと思います。

Chujo said whitty, "Leaving aside her skill in sewing, you should have got along well with her forever as Kengyu and Shokujo meet in the Milky Way once a year.  Indeed Princess Tatsuta is superior to anyone in dying a robe beautifully red.  But even the Princess, sometimes failing in dying, does not always make a tone of color perfect.  It is very difficult for us men to choose an ideal wife, I think.  There seem to be no fixed principles about it.

N君:第2文の you should have got along well with her forever は「左馬頭くんはその女性といつまでもうまくいけばよかったのにね」のような意味でしょうか。

S先生:その通りです。should+have+過去分詞 は「実現しなかった昔の事を振り返りながら残念さを込めて述懐する」という感じで「~であったらなあ」と訳すことが多いです。ちなみに米国では get-got-gotten ですが、英国では get-got- got なので、この作文では英国風に書いています。

N君:その第2文後半の as節の中にある動詞 meet は、時制一致の法則からして met が正しいと思いますが、いかがですか。

S先生:牽牛と織女は今も1年に1回逢っているわけですから、時制を一致させずに、あえて現在形で書きました。普通なら過去形で書くべきところを、あえてはずしたというわけです。ここに気付いたN君は立派ですよ。

N君:第6文末の it は、前文の to choose an ideal wife を受けている、と思いますがそれでOKですか?

S先生:OKです。私のような英語教員が学校の試験で出題したくなるポイントだね。

オリジナル勉強風呂Gu 第336回 2022.2/17

帚木126・127:(左馬頭の言葉続き)ひとへにうち頼みたらむ方は、さばかりにてありぬべくなむ思う給へ出でらるる。はかなきあだごとをも、まことの大事をも、言ひ合はせたるに、かひなからず、竜田姫と言はむにもつきなからず、七夕の手にも劣るまじく、そのかたも具して、うるさくなむ侍りし」とて、いとあはれと思ひ出でたり。

日々の暮らしを共にして、なにかと頼りにする妻となれば、あの女あたりで充分よかった、、、と今でも時々思い出しますよ。彼女は、かりそめの風流事でもあるいは実質的な暮らしの大事でも、相談すれば必ずちゃんと意見を持っているやつだったしね。染物の手腕は、竜田姫が紅葉を染めるのにも劣らず、織物の腕前は、七夕の織姫にも匹敵するくらいに、細かい所に気が付いて優れていました、、、たいした女でした」などなど、今更ながら可哀そうなことをしたと、左馬頭は思い出していた。

N君:Even now I recall that she was really capable enough to serve as my legal wife whom I could live together with and rely on.  She was a reliable woman who never failed to return a decent answer to my question about from a trivial hobby's matter to a substantial issue in our life.  Her ability to dye was no less than that of Tatsuta-hime who was good at making maple leaves red and yellow.  Her skill to weave thread into cloth was equal to that of Tanabata's Ori-hime who was an expert for making a fabric , both in ancient tales.  She was a some woman."  A number of memories made Sama-no-Kami feel some pitty on her.

S先生:今日はいろいろあります。第1文の capable enough to serve as ~ は間違いではないが、この場面ではやや重いので、capable of serving as ~ くらいにする手もあると思います。第2文の my question に続く長い句は二つの点でいけません。まず、about from ~ to ~ という構成は二重前置詞の用法として不自然です。さらに、hobby's matter のような所有格は英語では考えられません。日本語の語感に従って安易に所有格を使ってはいけないのです。この論法で行くと第4文の Tanabata's Ori-hime も大いに問題でしょう。これらの間違いを払拭するために、まずは question の後にカンマを打って一旦文章を区切り、その後に whether it was a trivial entertainment or a substantial issue in our life.  という譲歩節を入れ込むというのはどうでしょうか。it は question を受けていて「問題が、小さな風流事に関するものであろうが実生活の問題に関するものであろうが」となります。第5文の she was a some woman. の some は「なかなかの、たいした、相当の」の意ですね。私も不勉強で確たることは言えないのですが、この意味で使う時は冠詞が付かないようです。つまり She was some woman. とするのが正しいようなのです。あいまいさが残るので、some を使うのはあきらめて She was an able woman. くらいにするのが無難かもしれませんね。それにしても some のこの意味を知っていたのは高校生としてはスゴイことで、似たものとして something「重要人物、結構な事」というのもあります。これも無冠詞で使われるようなので辞書で調べてみて下さい。some の話のついでに、第6文の A number of memories made Samanokami feel some pity on her. に使われた some に注目してみましょう。これは副詞ですが、「いくぶん」なのか「ひどく」なのか、訳すのに悩みます。N君は「いくぶん」の意味で使ったのかもしれないが、ここはやはり「ひどく」と訳したい所です。辞書には両方記載されています。話は変わるが、この第6文のように無生物主語を使うと文章が硬くなりますね。たまに使うのは良いですが、多用はいけません。

I still sometimes think that she was a wife reliable enough to live together with.  She had her own opinions when I consulted with her about anything, whether it was a temporary taste or a practical thing in our daily life.  As for dying, she was no less skillful than Princess Tatsuta, and as far as sewing is concerned, even Princess Tanabata was no match for her.  Indeed she was a great artist."  Thinking of her, Sama-no-Kami repented of his pitiless deed to her.

N君は daily と dairy の違いを意識したことがありますか?  daily「毎日の」、dairy「乳製品」ですが、私は若い頃この両者の区別を意識したことがなくて、ある時に気付いて愕然としたことがあります。思い込みというのは恐ろしくて、これに似た苦い経験が他にもあるので恥ずかしさを忍んで紹介しましょう。fast food のことを長いこと first food だと思い込んでいました。fast は breakfast の fast であって「飢餓」の意ですから、fast food というのは「凝ってなくてよいからとにかく短時間でおなかを満たしてくれる手軽な食べ物」くらいの意味なのでしょう。suite room のことを長いこと sweet room だと思い込んでいました。恋人同士が泊まって甘い囁きを交わすから sweet なんだろうと思い込んでいたのです。実際は suite「一揃いの」で表現されているように、「寝室・浴室・居間などがひと続きで揃っている大きな部屋」の意味だったのです。まだあります。これは以前どこかでお話したかもしれませんが、、、。大昔、シアトルを旅行中の私が日本に国際電話を掛けた時のこと。電話交換の女性が私に、”Hang up and wait a moment." みたいなことを言ってきたので、受話器を挙げたまま待っていたところ、彼女が狂ったように、”Hang up! Hang up!!” と叫ぶではありませんか。hang up「受話器を置く」の意なのです。置く、なら down でしょう、と思ったのですが、調べてみると意外なことが分かりました。電話が家庭に普及しはじめた19世紀おわりのころ、電話は大概は壁や柱にくっついて縦に装着されていたため、up が「受話器を置く」の意になってしまい、それが21世紀の今でもそのまま使われている、というわけです。思い込みは、その時は恥ずかしいのですが、深く心に刻まれるので、忘れにくいという利点もあります。どんどん恥をかく、というのも英語学習のひとつの方法です。

オリジナル勉強風呂Gu 第335回 2022.2/16

帚木124・125:(左馬頭の言葉続き)の中の(左馬頭の心中)『さりとも、たえて思ひ放つやうはあらじ』と思う給へて、とかく言ひ侍りしを、そむきもせず、たづねまどはさむとも隠れしのびず、かがやかしからず、いらへつつ、ただ(女)『ありしながらは、えなむ見過ぐすまじき。あらためてのどかに思ひならばなむ、あひ見るべき』など言ひしを、さりともえ思ひ離れじと思ひ給へしかば、しばしこらさむの心にて、しかあらためむとも言はず、いたく綱引きて見せしあひだに、いといたく思ひ嘆きて、はかなくなり侍りにしかば、たはぶれにくくなむ覚え侍りし。

『だから彼女は私のことを全く見捨ててしまおうというようなつもりもないのだろう』と、こう愚考いたしまして、あれこれとかき口説いてはみましたが、完全に別れようとも言わないし、私を惑わすつもりで隠れてしまったりもしない、私が恥をかかぬ程度に生返事などしつつ、『どんなにおっしゃっても、今までのように移り気なお心のままではとても見過ごすことはできません。心根を改めて、私と落ち着いたお心でおつきあい下さるなら、お目にかかります』などと言う。そうは言っても、最終的に仲が途切れるというようなことはあるまいと高をくくっていましたので、なおしばし懲らしめようと思って、心を改めるとも言いやらず、強情を張って綱引きしている間に、女はひどく思い嘆いてとうとう死んでしまいました。ああ、こんなこともあるから、いい加減なことを口にすべきではないと、つくづく思いましたがねえ。

N君:彼女にとって可哀そうな結末になってしまいました。左馬頭はこの始末をどうつけるのでしょうか。今後の展開が気になります。

Therefore I held that she did not mean to part from me completely, and tried to do everything I could think of to win her love.  But she was noncommittal about my enticement.  She did not say good-bye nor conceal herself deliberately from me.  She only gave me a vague answer which barely served as a gesture useful for not irritating me.  She said, 'No matter how much you say, I cannot overlook your persistent capriciousness.  If you withdraw your unstable heart to associate calmly with me, I will see you again.'  But I did not seriously take the possibility of our connection being spoiled. Therefore I meant to give her some punishments.  The insolence excluded warmth from me.  While I remained obstinate without mending my ways, she lamented to death at last.  I felt a deep regret about having slipped out irresponsible remarks to her.

S先生:今日は色々と注文があります。第1文の try+不定詞 はここ最近話題にのぼっている言い方で「~しようとして頑張る」の意ですね。「試しに~する」は try+動名詞 でしたね。この場面の原文から考えて、どちらの場合もあるでしょうが、try+不定詞 を選択したN君の判断に私も賛成です。第4文の後半にある関係代名詞節は「私をいらだたせないようにするためのふるまいとしてはほとんど役立たない生返事」という意味のようですが、何をいっているのか意味を取りにくい。考えすぎです。もっと気楽に作文しましょう。肩の力を抜きましょう。ここは which以下を、so that she might not embarrass me くらいに変えて「彼女は、私に恥をかかせない程度に生返事をした」でよいと思います。第7文の take the possibility of our connection being spoiled 「我々の関係が壊れる可能性を考慮にいれる」は、おそらく、同格の of + 主語付きの受け身動名詞 ということで作文しているのでしょうが、なんとなく硬くて不自然な感じがします。もし take を生かすとしたら、ここは take it that our relationship would be spoiled「我々の関係が壊れると考える」というふうにするのが良いと思います。「~と思う、~ととる」を take it that ~ で表します。it はなくてもよさそうに見えるのですが、なぜかこの場合は形式目的語it を必要とするのです。たとえば、I take it that we should not judge people by their looks.「人を見た目で判断してはいけないと思う」という具合です。think よりも重々しい感じがしますね。第9文の The insolence excluded warmth from me.「その横柄な考えが、私の中から人間的な温かみを追い出した」ですが、この文は硬すぎるし、さらに、不必要です。思い切って除外しましょう。第11文の I felt a deep regret about ~ の前置詞は about でもよいですが for もありえますね。その後の having slipped out irresponsible remarks to her ですがこれはいけません。slip out は自動詞であって The secret just slipped out.「うっかり漏れた」のように使います。したがって本文では slipped out の所を made くらいに変えましょう。

And so convinced that she did not mean to leave me at all, I solicited her to make it up with me.  But she neither said that she would part from me, nor hid herself to annoy me.  She would give evasive answers.  'Whatever pleasant words you may utter, I won't forgive you so long as you remain capricious.  I don't mind seeing you if you will change your mind and associate with me kindly,'  said she.  Making light of her words, I never dreamed that I would become  estranged from her.  In order to give her a lesson I went on quarreling with her without changing my way of life.  Grieved at my insincerity, she passed away at last.   Oh, how deeply I regretted my thoughtless words.

第5文の if節の中に will があることに注目してほしい。第333回で解説したように、普通の仮定文ならたとえ未来のことでも if節の中味は現在形で表すというルールがありましたが、ここではそのルールに沿っていませんね。これは時制の問題ではなくて、will が意志を表しているからであって「もしあなたに、改心して私に優しく寄り添うつもりがあるなら」という意味になるのです。will の代わりに be to do の形を用いても良いです。be to do には多くの意味があるので、いつかまとめておく必要があるのですが、今は「if節の中に be to do を見たらそれは意志を表す」と意識しておいてください。すなわち、if you will change your mind and assosiate with me kindly を if you are to change ~ としても、両者はほぼ同じで「~するつもりなら」という意味になります。

N君:知らなかった単語・熟語を整理しておきます。make it up with ~「~と仲直りする」⇔ be estranged from ~「~と仲違いする、疎遠になる」。evasive answers「ごまかしの答え、言い逃れ」。make light of ~「~を軽視する」。

オリジナル勉強風呂Gu 第334回 2022.2/15

帚木123:(左馬頭の言葉続き)艶なる歌をも詠まず、気色ばめる消息(せうそこ)もせで、いとひたやごもりになさけなかりしかば、あへなき心地して、さがなく許しなかりしも、(女の心中)『我をうとみね』と思ふかたの心やありけむと、さしも見給へざりし事なれど、心やましきままに思ひ侍りしに、着るべきもの常よりも心とどめたる色あいしざま、いとあらまほしくて、さすがに、わが見捨ててむのちをさへなむ、思ひやりうしろみたりし。

艶っぽい歌を詠み置くでなし、それらしい手紙を残しておくでもなし、私としちゃあ、ただもうひたすら家に籠っているような次第で、面白くも何ともありません。これにはさすがにがっかりしまして、さてはあれほど口やかましく私を責め立てたのも、本当はそれで自分を嫌いになって欲しいという、縁切りの願いがあったのかもしれない、、、そんな風には見えなかったが、、、と、面白からぬ思いのままに、色々と思い巡らしていたのです。それでいて、寝巻の支度などはいつもよりよほど念入りに、その色合いといい、仕立てようといい、実に申し分のない仕方なんです。つまり、あんなふうに私が冷酷に見捨てた後もなお、そうして私のことを思いやり世話をしていてくれたわけなんですね。

N君:She had left neither an elegant poem nor a tasteful letter for me. Therefore I could not help staying alone in my house. How dreary the situation is !  I was very disappointed with her cruel treatment.  I supposed unpleasantly that the way she had blamed me so loudly might be derived from her desire to sever her connection with me.  'Actually she might have wanted me to dislike her, though I was unaware of such a complicated heart of hers then,'  I said to myself.  Thinking over this and that, I came to realize her warmth.  The way she had prepared my nightclothes that night more elaborately than usual left nothing to be desired in terms of both color and design.  To put it briefly, she still tried to look after me tenderly even after I had deserted her so mercilessly.

S先生:今日の所はこれまで334回やってきて最も良い出来でした。採点者が泣いて喜びそうなポイントが随所に見られますが、特に第8文の leave nothing to be desired「望まれることを何も残さない」=「これ以上ない」「言う事なし」「最高」の所が良かったです。なかなか凝った表現で、小説を読んでいるような感覚に陥りました。ただひとつ難点を挙げるなら、第5文の be derived は大仰なので come くらいに変える方が良いでしょう。be derived from ~「~に由来する」はたとえば、His character has been derived from his father.「父親譲りだ」とか、Many English words are derived from Latin.「英単語はだいたいラテン語由来だ」などの時に使います。本文では、女が左馬頭を激しく非難したわけが、彼女のどういった感情から来ているのか、を述べた場面ですから、be derived from より come from の方が良さそうです。ついでにもう一つ、第9文の try+不定詞 は「実現しなかったけど努力した」を表す適切な使い方でしたね。ここでは「頑張って私の世話をしようとした」の意味になります。前回も話題になった try+動名詞「試しにやってみた」とは、全く違う意味になりますね。今日のN君の作文は相当に出来が良いので、私の作文が貧相に見えるかもしれません。今日の私の作文は「出来るだけ短く簡潔に」をモットーにして作ってみました。

She had left no amorous poem or letter for me.  I felt very uncomfortable to be forced to confine myself in my house.  I was quite heartbroken.  I thought it might be because she had wanted to part from me that she had been nagging at me, though not seeming so serious.  Thinking of this and that unpleasantly, I was surprised to find my nightclothes laid out more carefully than usual.  They were colorful and sewn perfectly.  She wanted to care for me even after I had fosaken her cold-heartedly.

N君:nag at「うるさく小言を言って~を悩ます」≒ tease。 forsake「それまで大切だった人との縁を絶つ」で give up よりも改まった言い方。第4文の後半にある接続詞付き分詞構文的な though not seeming so serious はどういう意味ですか?

S先生:though she did not seem so serious「あまり深刻そうには見えなかったが」の意味です。

オリジナル勉強風呂Gu 第333回 2022.2/14

帚木121・122:(左馬頭の言葉続き)さればよと心おごりするに、さうじみはなし。さるべき女房ばかり泊まりて、(女房)『親の家にこのよさりなむわたりぬる』と答え侍り。

ああやっぱりなあ、とその気になって入ってみると、なんのことはない、本人はいやしない。で、世話する女房ばかりが残っていて、女自身は親の家にさっき帰った、とこう言うじゃありませんか。

N君:happy end かと思ったらなんだかきな臭くなってきました。

'It is what I have expected,' I said to myself and entered the bedroom cheerfully only to find no one there.  She had gone.  All the persons still staying in her house were ladies-in-waiting, who told me that she had already made her way back to her parent's house just before I arrived.

S先生:今日のN君の作文については特に言う事はありません。結果の不定詞や、非制限用法の関係代名詞を、上手に使って良い文章に仕上げていると思います。

Ah, she was waiting as I had expected.  But when I entered the room, she was nowhere to be foundAll there were there were ladies-in-waiting, who said that she had gone home to stay with her parents a short time before.

N君:第2文主節の she was nowhere to be found を見て「英語らしいなあ」と感じました。僕の和製英語脳からは to be found は出てきません。第3文主節はS先生の遊び心が出たのでしょうか。All there were there までが一区切りで、これが主語「そこに居る人みんな」ですね。はじめの there は弱音、あとの there は強く発音します。

S先生:今日は久しぶりに早く終わったので、気楽な雰囲気で英作談義:「普通の条件文と仮定法はどこが違うのか」を考えてみましょう。「もしまた失敗したら、もう一回やってみます」という日本語を英語にしてみましょう。普通に考えると、If I fail again, I will try once more. くらいの文を作りますよね。未来のことを言っているわけですから、主節には will がありますが、If節にはありませんね。if節を含む副詞節の中味はたとえ未来のことでも現在形で書く、という基本的なルールがあって、中学生くらいでも知っている人は知っています。高校生になると、半分以上の人が知っていると思います。副詞節では現在形だが、名詞節ではちゃんと will を使いましょう、という問題が高校生の文法問題で出題されたりします。もし 副詞節のif節の中に will があったら「~するつもりなら」という特別な意味になるので、これは時制とは別の話になります(この件については第335回を見よ)。そのことはさておき、さてここで注意すべきなのは「この文は普通の条件文である」という認識です。動詞が普通の形なのでそう判断できるのです。普通の条件文なので、「失敗するかどうかは分からないが、もし失敗するなら」というくらいの普通のスタンスです。これが仮定法になると、話者の意識が全く違ってきて、「ゆめゆめ失敗しないとは思うけど、もし万一失敗したら」といった意味になるのであって、この意識の違いを話者が表現するためには、動詞の形を変えましょう、ということになるのです。その結果、If I should fail again, I will try again. という文になります。はじめの文と比べると、If節の中に should が無いのか有るのか、だけの違いです。should が無いか有るかで、これだけ大きな意味の違いが発生するわけです。未来のことを言っているので仮定法未来などと呼ばれることもありますが、そんな呼称はどうでもよくて、「should が入ると万一なんだ」と肌で感じることが大切だと思います。この万一の感じをさらに強調しようとして、Sould I fail again, 、、、とする表現法もあるので、こんがらがる生徒もいます。たとえば、高校生が長い論説系の英文を読んでいて突然、Should an earthquake hit the area,、、、などという文章に出会うと、面食らうわけです。疑問文でもないし、条件節っぽいけどどういうことか分からずお手上げ、ということになります。これは If an earthquake should hit the area,、、、という節ですが、should があるから普通の条件節ではなくて仮定法であって、「大丈夫だとは思うが、万が一、地震がこの地域を襲うことがあれば」の意になるのです。今後、if節(専門家は if-clause なんて言います)を見たら、ちょっとだけ立ち止まって、それが普通の条件節なのか、それとも仮定法なのか、考えてみることをお薦めします。

 

オリジナル勉強風呂Gu 第332回 2022.2/13

帚木120:(左馬頭の言葉続き)の中で(左馬頭の心中)『うちわたりの旅寝すさましかるべく、気色ばめるあたりは、そぞろ寒くや』と思う給へしかば、いかが思へると、気色も見がてら、雪をうちはらひつつ、なま人わろく、爪食はるれど、(左馬頭の心中)『さりとも、こよひ日ごろの恨みは解けなむ』と思ふ給へしに、火ほのかに壁にそむけ、なえたるきぬどものあつごえたる、おおいなるにうちかけて、ひきあぐべき物のかたびらなどうちあげて、こよひばかりやと待ちけるさまなり。

『宮中に泊まるというのも味気ないし、といって、なにやら気のおける女の所へ行くのも寒々しい気持ちがするし、で、そうだあいつはどうしているだろうか』と、様子見がてらに雪を払って行ってみることにしました。ああやって爪を食われるほどの大喧嘩をした女の所へ、のこのこ出掛けるのもなんだか体裁が悪いとも思ったのですが、でも『こんな夜に訪ねて行ったら、あの日以来のわだかまりも解けるに違いない』と、そう思いましてね、行ってみましたよ。そしたら、灯火をほんのりと壁のほうに向けて、もう寝所の支度がしてある。そこへやんわりとした、暖かそうな夜の衣が大きなにかぶせてあって、なにか炭火を入れて温めてあるらしいんです。しかも寝床をしつらえた帳台の垂れ絹は、いかにも私の入来を待っているかのように引き上げてある。向こうでも、今夜あたりは来るだろうと待っていたらしいんですね。

N君:気のおける女=気兼ねのある女=打ち解けていない女、の意です。気のおけない女=遠慮気兼ねしなくていい女、ということで、日本語は難しいです。昔、センター試験に出たことがあったそうです。

’It will be dreary to stay overnight in the Palace, and it will also be uncomfortable to visit a woman with whom I cannot yet talk in a familiar tone.'  Then I thought up dropping in at her house.  Making nothing of the deep snow, I decided to visit her partly because I wanted to know whether she was well off.  Although I felt it awkward to meet her again after my finger was injured in the terrible dispute with her, I expected that my sudden visit in this dreary night would thaw our ill feelings persisting from that day.  I tried visiting her.  To my surprise, I found the bed had been already prepared with the candle's faint light faced to the wall.  A soft nightgown which seemed completely comfortable were spread out over a large bamboo basket, in which charcal was apparently burnt to warm up the clothes.  Moreover, the drop curtain attached to the bar of the wooden fences around the bed was rolled up as if she were willing to invite me.  She seemed to be waiting for me that night.

S先生:ここ数回のN君の作文はいきいきとしてとても良くなってきています。私は、初めにN君の作文を添削した後で自分の作文をしていたのですが、そうすると知らず知らずのうちに、N君の作文に引っ張られているのを感じるようになりました。そこで時には、まず自分の作文をしてから、その後でN君の作文を添削するようにしています。それもこれも、N君の英語力がアップしている証拠です。今回のN君の作文もなかなか良い出来であまり言う事もないのですが、あえて3点だけ指摘しておきます。第3文末の名詞節 whether she was well off はちょっと違います。be well off は経済的な意味で「暮らし向きが良い」の意味であって、ここでは「達者でいるかどうか」を知りたかったのですから、get on くらいが良いのではないでしょうか。この場合、あとになにか良さそうな副詞を持ってくる手もありますが、いっそのこと whether を how に変えて、how she was getting on とするのがスッキリして良いと思います。こうすると「彼女がどうしているか知りたかった」となり、原文の意味を充分に伝えているでしょう。第7文冒頭の A soft nightgown ですが、一般に gown は女性・子供用のことが多いので、男性用ということで nightcloth としましょう。この語は普通は複数形で使われるので、不定冠詞を除外して Soft nightclothes とします。寝巻やパジャマの意ですね。同じ第7文の関係代名詞節の中で使われた副詞 apparently は、「明らかに」ではなくて「見たところどうも~らしくて」の意であって、非常に大切な単語です。N君の作文では in which charcoal was   apparently burnt to warm up ~ というように apparently が通常の位置にあり、これで良いのですが、しばしばこの副詞は、用言修飾というより文修飾という観点から、文頭に置かれることもあり、ここでも in which apparently charcoal was burnt to warm up ~ という手もあったと思います。話は変わりますが第5文の I tried visiting her. ではさっそく前回指摘した「try+動名詞」を使ってきましたね。「試しに訪ねてみた」の意ですね。「訪ねようとして頑張った」のなら try+不定詞 になります。

S先生:It would be dreary to stay alone in the Palace.  Yet it would be unsatisfying to visit a woman difficult to get along with.  So I decided to go to her to see how she was spending her days.  Clearing the snow, I made my way to her house.  Though I thought it unseemly to visit her nonchalantly after we had had such a terrible quarrel that resulted in her biting my finger, I told myself that her resentment would melt away if I called on her with a soft feeling on such a cold night.  Then I found that futon had been put down on the floor, a dim light turned toward the wall.  Soft nightclothes had been spread out over a big bamboo basket, warmed by a charcoal fire.  The silk curtains in the bedroom had been raised as if she were waiting for me to come.

N君:unseemly「みっともない」、nonchalantly「無頓着に、平然と」。第6文後半の a dim light turned toward the wall はおそらく独立分詞構文で、a dim light のあとに being が省略されているものと思われます。