2021-04-08から1日間の記事一覧
桐壺53:(母君)「今までとまり侍るがいと憂きを、かかる御使ひの、よもぎふの露わけいり給ふにつけても、いと恥づかしうなむ」とて、げにえ堪ふまじく泣い給ふ。 「今まで自分独りがこうして生き永らえているだけでも本当に辛いことですのに、かたじけなくも…
桐壺52:南面(みなみおもて)におろして、母君もとみにえ物ものたまはず。 命婦は南側の部屋に通され母君と対面したが、母君は涙ぐむばかりでにわかには言葉を出すことができない。 N君:Myoubu was invited into a room on the south of the house, and face…
桐壺51:やもめ住みなれど、人ひとりの御かしづきに、とかくつくろひたててめやすき程にて過ぐし給ひつる、やみにくれて伏し沈み給へるほどに、草も高くなり野分にいとど荒れたる心地して、月かげばかりぞ八重葎(やえむぐら)にも障らず射し入りたる。 母北の…
桐壺50:命婦かしこにまかでつきて、かど引き入るるより、けはひあはれなり。 命婦は故桐壺更衣の里に着いて、門内に牛車を引き入れてあたりを見渡すと、なんともあわれを誘う邸内の様子だった。 N君:Myoubu reached the private house of the late Kiritsu…
桐壺49:かうやうの折りは御あそびなどせさせ給ひしに、心ことなる物の音をかき鳴らし、はかなく聞こえ出づる言の葉も、人よりは異なりしけはひかたちの、面影につと添ひておぼさるるにも、やみのうつつにはなほ劣りけり。 このような折々にはよく管弦の遊び…
桐壺48:夕月夜のをかしきほどに出だし立てさせ給ひて、やがてながめおはします。 夕方の月の美しい時分に命婦を出立させ、帝はそのまま物思いに沈んでいらっしゃる。 N君:While making her set off from the Palace just in the evening when the moon was…
桐壺47:野分だちてにはかに肌寒き夕暮れのほど、常よりもおぼし出づる事多くて、ゆげひの命婦といふを遣はす。 やがて秋の嵐が吹いて急に肌寒くなった夕暮れ、帝はいつにも増して桐壺更衣のことが思い出されて、靫負(ゆげひ)の命婦という女房を使者として桐…