古文研究法102 宇津保物語より:いと興あることかな。さ聞きき、神南備(かんなび)の蔵人(くろうど)の腹に生まれ給ふ君ありとは。かの蔵人はこよなく労(らう)ありし人なり。父こそ下臈(げらふ)なれ、子は有識にて、いと心にくかりしものを。このごろぞ聞かざりつる、いかやうにか生(お)ひ出で給ひたる。
たいそう面白いことだな。神南備の女蔵人がお産みになった方があると私は聞いたぞ。あの女蔵人さんは立派な人だった。父親だった神南備の種松さんは身分が低かったが、その子の女蔵人さんは教養が深くて優雅だった、、、(早くに亡くなって惜しいことをしましたなあ)。その女蔵人さんが生んだ息子の源涼さんのことを最近あまり聞かないが、どんなふうに御成長なさっておいでなのかねえ。
N君:神南備の種松という長者と、源恒有の娘、との間に女の子があり、それが宮中に仕えて女蔵人をしているうちに、帝との間に源涼(みなもとのすずし)という男子が生まれました。涼の母であった女蔵人は早くに亡くなったので、涼は祖父種松のもとで養育されており、その涼のことを噂している場面です。「さ聞きき、~ とは。」というのは倒置法であり「~と聞きき。」が普通の語順です。「き」は過去の助動詞。「労ありし人」は「人格的に立派な人」の意味。係り結びがそこで終わらずに文が続いていく時は逆接ですから「父こそ下臈なれ、」は「父は身分が低かったが、」の意味です。「心にくし」は「優雅」で、「心にくかりしものを」の「を」は「早くに亡くなって残念なことですなあ」の気持ちを含んだ言い方です。最後の一文は「突然何の断りもなく話題が涼のことへ移っている」のに気付く必要があり、このあたりが古文の難儀なところでしょう。
How fantastic it is ! I hear that Kannabi-no-Kurodo bore a baby boy. She was a fine woman. Although her father Tanematsu was lowly, she was a well-educated and elegant woman. It is regrettable that she died young. I don't hear about her son Suzushi. I am worried about how he has grown.
S先生:良いと思います。第3文の a well-educated and elegant woman ですが、軽前重後の原則に従えば an elegant and well-educated woman となります。
I hear that a low class court woman bore the Emperor a baby boy. What an interesting piece of news ! She was a most respectable woman. Though her father Tanematsu belonged to a low class, his daughter was an elegant and sophisticated woman. How regrettable (it was) that she died so young ! I would like to know what a fine young man he has grown.
N君:先生の第2文に出てくる an interesting piece of news は、僕ならウッカリ an interesting news と書きそうです。
S先生:news は不可算名詞なので数える時には piece が必要になります。
N君:先生の第3文に出てくる a most respectable woman は「最も尊敬すべき女性」という意味でしょうか? それにしても定冠詞でなくて不定冠詞になっている所が謎です。
S先生:もしも the most respectable woman なら「最も尊敬すべき女性」でよいですが、ここでは不定冠詞になっていますね。不定冠詞の場合は単に a most ~= a very ~ と考えてもらってよいです。