古文研究法65-4 土佐日記:この人、必ずしも言ひ使う者にあらざなり。
この人は別に、召し使っている者でもないようだ。
N君:「あらざるなり」が「あらざなり」になったのですが、それはいったいどういうわけか? と調べてみたら「音便(おんびん)形」というものに行き当たりました。書かれたものを読む時に発音しにくい場合があって、そのような場合には発音し易いように言い換える、という現象が起こったそうです。たとえば「美しき人」→「美しい人」はイ音便、「美しくて」→「美しうて」はウ音便、「手を取りて」→「手を取って」は促音便、「あらざるなり」→「あらざんなり」→「あらざなり」は撥音便です。したがって今回の文章では、はじめの「る」撥音便化して「ん」となり、さらにそれが省略された、と理解すればよいわけです。
This man does not seem particularly to be a servant.
S先生:副詞 particularly の位置が悪い。seem の前に持ってくるべきです。
This man does not particularly seem to be a servant.
particularly がこの位置にある場合は部分否定を表しており「必ずしも~というわけではない」の意味になります。たとえば I don't particularly like 'enka.'「特に好きというわけじゃない」。一方、particularly が否定語の前に出ると I particularly don't like 'enka.'「演歌が特に嫌い」となって全面否定となります。要するに particularly は否定語の前と後で意味が異なる、と言いたいのです。ただしN君の作文に出てきたような位置に particularly が来ることはないので、今後気を付けて下さい。