kn0617aaのブログ

文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第502回 2022.8/2

百人一首No.80 待賢門院堀河:長からむ心も知らず黒髪の 乱れて今朝はものをこそ思へ

末永く変わらないというあなたの心も計り難く、お逢いして別れた今朝は、黒髪が乱れるように私の気持ちも乱れて、恋のもの思いに耽っています。

N君:なんか大人の歌ですね。

I cannot expect that your favor to me will continue forever.  Having parted from you this morning, I am distressed by various sentiments as if my black hair might get disheveled.

S先生:構成としては立派です。ここで使われた expect は常に hope との異同が問題となる動詞です。どう違うのかと尋ねられても一言で説明できないのですが、大げさに言えば「expect は”当然のこととして期待する”」の意であって、I expect that you will forgive her.「当然許すよね」であるのに対して、「hope は”希望として願う”」なので、I hope that you will forgive her.「できれば許してやって欲しい」となります。N君の第1文には expect がよいのか hope がよいのか難しいところで、どちらを使うかによって微妙に意味合いが違ってくるでしょう。expect の場合は「私をずっと愛してくれるのが当然だとは期待できない」なので、振られる確率30%というところでしょうか。一方 hope の場合は「私をずっと愛して欲しいけど望み薄だ」なので、振られる確率80%くらいでしょう。さて堀河さんの心情はどちらでしょうか? expect でズケズケいくのか、hope でヤンワリと気弱にいくのか、どちらもありですね。しかしここでは一旦そういう悩みを捨てて believe を使うのが簡潔で良いと私は思います。

As my black hair gets disheveled, so is my heart broken to pieces this morning, unable to believe your words that you will love me forever.

N君:(Just) As S+V, so S+V の構文で、後半のVの一部つまり助動詞が so に引っ張られて前に飛び出した格好ですね。慣れてきました。

MP氏:I do not know if you will always be true.  This morning after you left, I recalled your vows to me looking at my long black hair so disheveled ー like the tangles in my heart.

N君:MP氏の作品第1文に使われた形容詞 true が分かりません。僕の感覚では honest とか sincere 、あるいは a faithful man などが浮かぶのですが、true は浮かびません。そこで辞書を引いてみると「一定で変わらない」という意味が載っていました。stable では味気ないのでしょう。第2文後半の tangle は「もつれ、からまり」で、うまいこと言うもんだと思いました。

K先輩:第470回で触れたように「治天の君sovereign」白河院の君臨する世においては彼の意に添わぬものはなかったのですが、そんな中で彼の意のままにならないものが三つありました。それが天下三不如意です。「賀茂河の水・双六の賽・山法師、是ぞ我が心にかなわぬもの」というわけです。梅雨や台風の時期に賀茂川が氾濫するのはさすがの白河院でも止めようがありません。双六好きの彼は「遊びをせんとや生まれけん」などと口ずさみながら愛妾祇園女御と一緒に双六をやったでしょうが、その賽の目をコントロールすることはさすがにできません。延暦寺の僧兵(山法師)が日吉神社の神輿を担いで「荘園をよこせ!」と朝廷に強訴してくるのですが、神様のシンボルである神輿には手を出せないのでどうしようもありません。ただし少し時代が下がって後白河院(白河院のひ孫)の頃に、若き日の清盛が山法師の神輿に矢を射かけて剛毅なところを見せたことはありましたが。さて白河院祇園女御が連れてきた可愛らしい女児璋子(たまこ)を気に入り、自分の養女として育てたのですが、この璋子こそが後の待賢門院璋子です。相当な美人だったらしいです。待賢門院璋子が晩年を送ったのが洛西の法金剛院で、この小さな寺は第427回において猿丸太夫の正体について論じたときに出てきた清原夏野の別荘だったところです。京都駅から嵯峨野線に乗って、梅小路西~丹波口~二条~円町 と来て次の花園で降りると、道をはさんで目の前に法金剛院があります。夏には蓮の花がきれいで「花の寺」とも呼ばれています。背景には双ヶ丘(ならびがおか)と呼ばれる低い山があって、ここは吉田兼好が隠棲して徒然草を書いた場所です。派手さはありませんが、太秦映画村や広隆寺なども徒歩圏内なので、気候の良い時に散歩してみるのもよいでしょう。さて美人の待賢門院璋子に仕えた上臈女房が本歌作者の堀河でこの人も美人。No.86西行は若い頃は佐藤義清(のりきよ)という名のハンサムな武士で、清盛と一緒に白河院創設「北面の武士」の一員を務めていました。和歌もうまかったので堀河とは顔見知りでした。顔見知りどころか男女の仲であったという噂もあります。西行は璋子に一目ぼれしたこともあり、恋多き男だったようです。北面の武士に取り立てられるためには、弓馬の道に秀でていることはもちろん、氏素性がしっかりしていること、容姿端麗であること、などの厳しい条件があり朝廷の女房どもも当然注目していました。堀河も佐藤義清=西行 には注目していたでしょう。本歌においても、もともと堀河が作っていた歌を西行が推敲して「黒髪の乱れて今朝は」を入れ込んだ、という話があります。これが入るとグッと艶めかしい感じになります。堀河はハッとして西行の横顔を見たことでしょう。幼い頃から歌詠みの上手を自負していた堀河が、自分をはるかに超える西行の偉大な才能にひれ伏した瞬間です。それは西行への尊敬を生み、恋慕の情を増幅させたでしょう。