kn0617aaのブログ

文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第491回 2022.7/22

百人一首No.69 能因法師:嵐吹く三室の山のもみぢ葉は 竜田の川の錦なりけり

嵐の吹きおろす三室山の紅葉は竜田川の錦なのであった。

N君:久しぶりに simple な構成の歌でホッとしました。

An autumn wind blowing down from Mt. Mimuro disperses maple leaves to weave a thick and beautiful fabric, which covers the surface of the Tatsuta River.

S先生:disperse とscatter は一応 synonym ではありますが、語感として scatter には「とっちらかす」のような感じがあるので、ここは disperse でよいでしょう。autumn wind には不定冠詞が必要で、Mt. Mimuro には不定冠詞も定冠詞も要らない、さらに竜田川には定冠詞が要る、というところが地味ながら大切で、これはもう理屈抜きで慣れるしかありません。

Blowing down from Mt. Mimuro, an autumn wind has made the maple leaves a beautiful brocade on the River Tatsuta.

MP氏:Brown by storm winds, Mt. Mimuro's autumn leaves have become Tatsuta river's richly hued brocade !

N君:hue「色合い」ですが color というより tone に近い感じ、と辞書にありました。color がはっきりした色なのに対して hue は中間色とのことでした。

K先輩能因法師といえば能因歌枕です。能因は歌枕の研究に心血を注ぎました。歌枕とは古い歌に詠みこまれた名所旧跡のことです。歌枕の例は沢山ありますが何個か例を挙げてみましょう。まずは「末の松山」です。第464回にNo.42清原元輔の歌の中にも登場しました。古今集に詠み人知らずの歌として「君をおきてあだし心をわが持たば 末の松山波も越えなむ」が出ています。宮城県多賀城市宝国寺の裏山に巨木の松があり、すぐ脇の石碑にこの歌が刻まれています。要するに、末の松山を波が越えることなどありえない → 愛を誓った恋人の心変わりなどありえない → ありえないはずの恋の心変わりを連想させる歌枕、となりました。No.42の歌で元輔は、心変わりした女への恨みつらみを詠んでいます。このようにして歌枕は「単なる名所旧跡」から「特定の連想を促す地名」へと変化していきました。本歌の場合の歌枕「竜田川」は、はじめは、大和国斑鳩にある神南備(かんなび)山=三室山 の東を流れる川、だったのですが、秋になると紅葉が美しいと有名になり、ついには「colorful な紅葉の錦を連想させる歌枕」となりました。鶏肉をから揚げにする時、片栗粉を付けて揚げると「肉の褐色に白い片栗粉が斑状に映えて colorful だ」というところから「竜田揚げ」と呼ぶようになったらしいです。このほか、須磨(今の神戸市)と言えば「侘しい流離の生活」を連想してしまいます。源氏物語光源氏が配流されたのが須磨だったからなのでしょう。No.78源兼昌「須磨の関守」の歌を通底しているのはやはり「冬枯れの愁い」でした。現代日本で神戸と言えば、国際貿易港とかオシャレな街というイメージですが、昔は正反対だったようです。次は歌枕とは呼べないでしょうが、「姥捨て山・更級」と「慰め難し」とが関連語になっています。大和物語には、妻にせきたてられた男が老婆を背負って更級の山に捨てに行く話が出ています。老婆を山頂に捨てて山を下りた男が歌を詠みます:「我が心慰めかねつ更級や 姥捨て山に照る月を見て」。これ以降、「慰め難し」という時には「更級」「姥捨て山」を引き合いに出すようになりました。ところで老婆は山頂で死んだのでしょうか? 御心配なく。男は一晩悩んだ末に再び山に登り老婆を背負って家に連れ帰ったそうです。妻はブツクサ文句を言ったでしょうが、男のこの判断は正しかったと思います。今回は歌枕について考察してきましたが、要するに歌枕とは「ある特別な感情を引き起こす地名」ということになるでしょう。