kn0617aaのブログ

文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第486回 2022.7/17

百人一首No.64 中納言定頼:朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに あらはれわたる瀬々の網代(あじろぎ)

明け方に宇治川の川面を覆っていた霧がとぎれとぎれになって、その絶え間のあちらこちらから川瀬の網代木が現れてくるなあ。

N君:早朝の宇治川の風景が浮かんできます。好きな歌です。

As it becomes bright in an early winter morning, the dense fog over the Uji River is gradually dispersing.  Many Ajirogis, wickerwork fences, have emerged here and there in the shallows.

S先生:第1文末の disperse は自動詞ですが動作動詞なので進行形になっていることはなんら差支えはありません。第2文頭の Many につられて Ajirogi に複数形の s を付けてしまいましたがこれは誤りです。日本語を複数形にしてはいけないのです。100 yen と言っても 100 yens とは言わない。

Now that a morning mist has begun to lift over the River Uji, wickerwork fences has come to appear from place to place in the shallows.

MP氏:As the fog rises and thins in patches, in the shallows appear stakes of the fishing nets ー Winter, dawn, the Uji river.

N君:MP氏の作品の文末に「冬、早朝、宇治川」と3つの名詞をたたみかけてこられて圧倒されました。ゴチャゴチャ説明するより、このほうが印象的です。文学をやっている人というのはやっぱり凄いです。

K先輩:No.55四条大納言公任「名こそ流れてなほ聞こえけれ」の息子が本歌作者定頼です。第482回で説明したように、定頼はNo.60小式部内侍をからかって手痛いしっぺ返しを食らいました。彼女の歌「まだ文(踏み)も見ず天の橋立」があまりにも機知に富んでいたため、定頼は度肝を抜かれて返歌さえままならず「這う這うの体」で逃げ帰ったとのことです。しかし本歌に見えるように定頼は素晴らしい歌詠みで、宇治川の冬の風物詩 a poetic feature of winter =網代木 を見事に描写しています。冬に鮎の稚魚=氷魚(ひお)をとるため浅瀬に杭を打って設けた竹簾=網代、その網代を支える杭が網代木です。京の南東にあってしかも京から1日で行ける宇治は、都の俗塵を避けつつも、何か用事があればすぐ京に帰ることができる、という便利な別荘地でした。今でも宇治は風光明媚ですし、夏は京都市に比べて少し涼しいでしょう。No.8喜撰法師は「世をうぢ山と人は言ふなり(終止形+伝聞推定なり)」と詠んで隠棲seclusion を楽しんでいます。道長のむすこ頼通も宇治に平等院を建てました。1074頼通は忌の際にあたって、鳳凰堂に安置した阿弥陀如来の手に糸を掛けその一端を自分が持って死んだと伝えられています。1052から末法の世に入っており、頼通は極楽往生したい一心だったのでしょう。また宇治の地は、京の都から大和国長谷寺へ詣でるための通り道でもありました。紫式部源氏物語」に憧れた文学少女菅原孝標女も歳をとり40を過ぎた1050頃の話です。後冷泉天皇の即位を祝う大嘗会(だいじょうえ)に皆が浮かれ騒いでいたのを尻目に、孝標女は皆とは逆方向の長谷寺詣でへ向かいました。親戚や道行く人々から「バカなんじゃないの?」と言われたけれど、心の安寧こそが大切だと信じて長谷寺へ向かったのです。一般人と教養人はとる行動が逆です。圧倒的に一般人のほうが多いから教養人は色々言われるのですが、それでよいのです。長谷寺と言えばNo.35紀貫之「人はいさ」で有名な梅の里。「いつしか梅咲かなむ(未然形+願望終助詞なむ)」で更級日記を書き起こした孝標女が、いま長谷寺を訪れて、その脳裏には150年前の紀貫之の歌が響いていたでしょう。大和国初瀬の長谷寺は恋の成就を願う寺としても有名で、No.74源俊頼「憂かりける人を初瀬の山おろしよ」でも歌われています。古本説話集だったか古事談だったか今昔物語集だったか忘れてしまいましたが、長谷寺で座禅を組んだ男の話がありました。「”ろ”で始まって”ろ”で終わる歌を詠んだらつきあってあげてもいいわよ」と女に言われた男が長谷寺で座禅を組み、歌をひねりだそうとします。歌は出てきませんでしたが、偶然現れた鶏に「ろ、、、ろ」の歌を教えて貰った、という話です。それがどういう歌だったか、私は忘れてしまいましたが、もしN君がどこかでこの話に行き当たったら「ろ、、、ろ」の歌を教えて下さい。

私も最近、宇治平等院鳳凰堂および大和国長谷寺へお参りさせていただきました。平等院鳳凰堂阿弥陀如来長谷寺の十一面観音、どちらもありがたい仏様でした。手を合わせ心の中で住所氏名を言ったあとに「サマージャンボが当たりますように」と申し上げたのですが、ちょっと畑違いでしたか。