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文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第475回 2022.7/6

百人一首No.53 右大将道綱母:嘆きつつひとり寝(ぬ)る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る

嘆き嘆きして独りで寝る夜の明けるまでの時間がどんなに長いものであるか、あなたは御存知でしょうか、いや御存知ではないでしょうね。

N君道綱母蜻蛉日記の作者として有名なので僕でも知っています。当代一二を争う美女で、藤原兼家の第2夫人となって道綱を生みましたが、兼家の浮気がひどくて、その恨みつらみを蜻蛉日記に残した、という印象です。兼家正妻の息子が道長です。

Do you know how long it will be for me to lie in bed alone till daybreak, sobbing and weeping for your faithlessness ?  I wonder if you have any sympathy for me.

S先生:よく書けていると思います。動詞sympathize の場合は前置詞は with ですが、名詞sympathy の場合は to, for, with といろいろあります。ここでは for が感じが良いでしょう。understand のようなよくある動詞より sympathize のほうが良いですし、もっと言えば動詞よりも名詞 sympathy のほうが「ちっとも思いやってくれない」という気持ちが出ると思います。

Perhaps you don't know how long it will be for me to lie in bed alone, weeping and sighing, till the day dawns.

MP氏:Longing for you I spend whole nights lamenting.  But one like you can hardly know how long a night would be till it breaks at dawn ー if spent alone.

N君:MP氏の作品の文末に置かれた if spent alone が小気味良いです。

K先輩:936「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」という書き出しで紀貫之土佐日記を著して以降、970頃になってようやく本物の女性作者による仮名を使った日記がでました。それが道綱母「蜻蛉(かげろう)日記」です。これが引き金trigger となって、1000頃に紫式部日記和泉式部日記、少し遅れて菅原孝標女(すがわらたかすえのむすめ)の更級日記、さらに遅れて讃岐内侍日記、という具合に女流の日記が続いていきます。仮名文学という面から言うと、900前後に作り物のお話として伊勢物語竹取物語・大和物語がすでに世に出ていたわけです。これに対して蜻蛉日記では夫婦間のドロドロとした問題がドキュメンタリータッチで描かれているわけで、新奇novelty に満ちています。No.45 謙徳公=伊尹(これただ)の弟が兼家で、N君も言っているように兼家正妻の息子が道長、兼家第2夫人が本歌作者でその息子が道綱ですから、道長から見れば本歌作者は義母ということになるでしょう。兼家はあちこちと遊び歩いているのですから、彼女の頼みは自分が生んだ道綱だけだったでしょう。道綱は道長ほどの権勢家にはならなかったが、そこそこ出世もしたし、母親思いの優しい男に成長したようです。蜻蛉日記は、作者道綱母が夫兼家の不実 faithlessness に対して文句を言いながらも、息子道綱と共に健気に生きていく、というストーリー展開になっています。その冒頭が良い。「かくありし時過ぎて、世の中にいとものはかなく、とにもかくにもつかで、世に経る人ありけり」 ー 過去はもう過ぎてあてどなくその日その日を送る一人の女がいましたとさーーーこれは自分のことですね。古典の書き出しには名文が多いのでちょっと整理しておきましょう。伊勢物語「昔男ありけり」は簡潔ですが印象深い。源氏物語いづれのおほん時にか、女御更衣あまた侍ひ給ひける中に、いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれて時めき給ふ、ありけり」は、実名を挙げていないからこそ、かえってなまなましい。枕草子「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」は情景が浮かびますね。平家物語祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」は五七調を使った名文で、小中学生に覚えてもらって節をつけて歌ってもらいたいくらいです。琵琶の伴奏があると雰囲気が出るでしょう。方丈記「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまりたるためしなし」は、中世の無常観ここに極まれり、といった感じです。徒然草「つれづれなるままに日暮らし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ」はあまりにも有名なエッセイ集の書き出しで、これからどんなオモシロ話が飛び出してくるのだろう、とワクワクします。