kn0617aaのブログ

文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第465回 2022.6/26

百人一首No.43. 権中納言敦忠(ごんちゅうなごんあつただ):逢ひ見てののちの心に比ぶれば 昔はものを思はざりけり

遂にあの人と逢瀬を遂げたが、その後の恋しい気持ちに比べれば以前の恋心などは何も思っていなかったのと同じであったなあ。

N君:「逢ひ見る」というのは男女の肉体関係を暗示しているそうです。したがって「契りを結ぶ」「逢瀬を遂げる」のような訳になります。

I have come to love her much more deeply since our intimate affair.  Compaired to the present mad feelings, my love for her before that night was too faint to call it a true love.

S先生:ウン、やや冗長ですがなかなか良いですよ。intimate は「親密な」の意を表す形容詞ですが、例えば男が She is my intimate friend. と発言した場合は性的な関係を暗示しています。それを否定したいなら intimate ではなく good や close を使います。ここではN君は intimate affair という使い方をしていますがこれは「情事」の意味であってピッタリですが、歌としては生々し過ぎるかもしれませんね。

After having had a tryst with her, I long for her all the more painfully.  My love ere I had an intimate affair with her does not deserve to be called so.

N君:ere は before に似た意味の古い接続詞。deserve to do「~の価値がある」。文末の so は love の意でしょうか。

S先生:その通りです。ere は少し気取って古語を使ってみました。all the +比較級   は「かえって、ますます、それだけ」のように比較級が強調されます。この後に for がくっついて理由を述べます。 She got all the more angry for my silence. 「私が黙っていたので彼女はますます怒った」のように使います。さて今回も、第459・462・464回に続いて「日英ことわざ比較」をやります。

(1) 綸言汗の如し=王の言葉は不動であらねばならぬ:A king's word must stand.

(2) 夜目遠目傘の中(うち)=ろうそくの火で女性や寝具を見て選んではいけない:Choose neither women nor linen by candle-light.

N君:(1)では stand の訳し方が秀逸だと思いました。(2)はどういうことですか?

S先生:今の若い人は知らないかもしれませんが、「女の人というのは、夜に見た時や遠くから見た時や傘をさしてにいる時には美人に見えるものだ」という昔からの言い伝えです。言われてみればそうですよね。

(3) 弱り目に祟り目=ひとつの不幸はもうひとつ別の不幸の背に乗っている:One misfortune rides upon another's back.

(4) 李下に冠(かんむり)を正さず=悪いことをする気のない人は疑わしいことをしてはならない:He that will do no ill must do nothing that is suspicious.

(5) 精神一到何事か成らざらん=やる気のある人にはできないことなどない:Nothing is impossible to a willing mind.

N君:この to が分かりません。「やる気さえあれば」なので with のほうがしっくりくると思うのですが、、、。

S先生:この a willing mind は「やる気」ではなくて「やる気のある人」という意味です。ゆえに「やる気のある人にとっては」とするために to のほうが適しています。

(6) 寸鉄人を刺す=舌は蛇のひと咬みよりも有毒だ:The tongue is more venomous than a serpent's sting.

(7) 言うは易く行うは難し=言葉から行為まではものすごく遠い:From words to deeds is a great distance.

(8) 鳥なき里の蝙蝠(こうもり)=ひとつ目の男でもめくらの中に入れば王様だ:He that has one eye is a king among the blind.

(9) 天網恢恢疎にして漏らさず=天の復讐はゆっくりだがキッチリしている:Heaven's vengeance is slow but steady.

(10) 泥縄=泥棒を見て縄をなう=雨が降り出した後でコートを作ってもらってはいけない:Don't have your cloak made after it begins to rain.

K先輩:本歌は後朝(きぬぎぬ)の歌です。一夜を共にした男女が朝になって別れ、男は自分の家に帰った後に女に歌を送ります。なんとも風流ですね。敦忠は歌もうまいが琵琶の名手でもあったらしい。貴族が嗜むべき芸術として「琴棋書画」があります。琴は管弦を中心とした音楽、棋は囲碁、書は楷・行・草の毛筆、画は絵画ですね。「琴棋書画が一流のレベルに達していてしかもそれを生業(なりわい)にしないこと」が風流人の条件でした。とすると風流人であるためには金持ちでなければなりません。お金の心配があったら趣味に没頭できませんからね。ところが鴨長明「発心集」には、貧乏なのに風流な永秀法師の話が出てきます。永秀は金もないのに働きもせず笛の稽古ばかりしています。ある日、遠い親戚筋にあたる頼清の家を訪ねてきました。「金の無心か?」と頼清は身構えたのですが、なんと永秀は、頼清が持つ筑紫領に生えている竹を一本分けてくれ、と言うのです。笛を作るのに筑紫の漢竹が好適らしい。頼清は永秀の清廉な態度に感服して、竹だけではなくてお金も用立てようとするのですが、永秀はこの申し出を断ります。「御志はかしこまり侍り、されど其れは事欠け侍らず、二三月に帷(かたびら)ひとつまうけつれば十月まではさらに望む所なし」と言ったのです。Tシャツ1枚あるから秋まではそれで充分です、と言ったわけですが、これはなかなか言えるセリフではないです。こういう人になりたいものですが、なかなか難しいですね。