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文系科目ダメダメな中高生・浪人生のための英作文修行

オリジナル勉強風呂Gu 第440回 2022.6/1

百人一首No.18. 藤原敏行朝臣:住の江の岸による波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ

住の江の岸に寄る波の「よる」ではないが、夜でも夢の通い路を通ってあの人に逢えないのは、あの人が夢の中でも人目を避けているからだろう。

N君:この歌は色々な意味で難しいです。第1に、「や~らむ」が係り結びになっていて歌全体を強調しているのですが、「や」と「らむ」とが離れているので気付き難い。第2に、「住の江の岸に寄る波」が序詞になっていて次の「夜」を引き出しているので、序詞の部分を訳す必要はありません。第3に、「さへ」は「昼間はもちろんのこと夜も」の意ですが、すんなり読解できません。第4に、この歌には主語がありません。夢の通い路を通って来るのは誰なのか? それは女であろうはずがない、男に違いありません。ということは、この歌を詠んだのは女のハズ、なのに作者は藤原敏行になっています。どういうことなのでしょうか? 男性歌人が女性の立場になって作歌したもので、こういうのを代詠と呼ぶそうです。この歌以外にも、No.21素性法師、No.85俊恵法師の歌も代詠です。ゆえに英作文する時には女性が主語にならなければならないのですが、僕はそこまで読めなかったので、敏行を主語として書いてしまいました。

The reason I cannot meet her even in dreams may be that she has been avoiding being seen by others.

S先生:私も代詠のことは知らなかったので敏行を主語として作文してしまいました。さてN君の作文はよく書けていると思います。The reason のあとに why を入れる生徒がいますが不要です。avoid の目的語に不定詞が来てはいけないので to be seen ではなく being seen としたのは正解でした。by others は不要かもしれません。

Even at night waves are lapping on the shore of Suminoe.  Nevertheless, I cannot meet my sweetheart even in dreams.  She seems to avoid being seen.

MP氏:Unlike the waves beating on the shores of Sumiyoshi Bay, you whom I long to meet avoid the eyes of others and refuse to come to me, even at night, even on the road of dreams.

N君:MP氏の作文の後半で、even at night, even on the road of dreams. とたたみかける部分が抒情的で素敵だと思いました。なかなかこういう風には作れません。また、この作品では代詠も問題を避けて上手に作っているなあ、と思いました。

K先輩:そもそも「古文=昔の日本語」というのはどうしてこんなに分かり難いのでしょうか? その理由は色々あるでしょうが、敢えて一つだけ挙げるとしたら「主語や目的語が頻繁に省略されるから」であります。なぜ省略されるのでしょうか? 狭い島国に生きる単一民族が年がら年中顔を突き合わせているとそのうちに「みなまで言うな、分かってるから」といった感じになってくるのです。すると SVO の S がどこかへ飛んでいってしまう。V の語尾にくっついた敬語の有無や程度によって S を類推することができるから、もはや S を書く必要がなくなってしまうのです。酷い場合には O もどこかへ飛んでいってしまいます。文脈的に O を書かなくても分かるだろう、という理由らしいです。全く困ったものです。したがって古文を理解するためには次の3項目が大切です。第1は敬語で、これは主語決定のために必須でしょう。第2は助動詞です。助動詞は、敬意・推量・打消・過去・完了・断定 などなど、文章のニュアンスを決定するので、助動詞が分からなければ文意も分かりません。助動詞を学習する過程で否応なく古典分法の理解も必要になってくるわけです。未然形と已然形はどう違うのか、とか、各助動詞は何形に接続するのか、とかの問題に直面しながら、慣れていくことが大切になります。第3は形容詞。これは要するに「昔使われていたけど今は使われなくなってしまった言葉」「昔使われていた時と意味が違ってしまった言葉」ということです。このような形容詞を100個くらい覚えれば充分です。以上、敬語・助動詞・形容詞 を押さえることが重要です。ただ漫然と古文に向き合うのではなくて、この3ポイントを意識しながらやっていくと、分かる→楽しい→もっと分かる→もっと楽しい というサイクルができて、試験の点数も自然とアップするでしょう。そうやってマスターした古文を使って中国語を読んだら、それが漢文なのです。日本人は、外国の言葉を、いろいろな工夫を凝らしながら自国の言語で読み替えてきた、それが漢文です。その素晴らしい文化に触れるためにも、まずは古文を読み解いていきましょう。現古漢と英語を対比しながらその共通点や相違点を探るのは楽しい作業ですし、そこには必ず歴史が介在していますから、自然と歴史にも詳しくなっていきます。このようにして、数学・物理・化学とは一線を画した文系科目のワールドが形成されているわけです。N君をはじめとする文系科目ダメダメな生徒さんたちは、数物化の勉強の骨休めとしてでもOKですから、この素晴らしい文系ワールドを楽しんでほしいのです。それはきっと人生を楽しい方向へと導いてくれることでしょう。