オリジナル勉強風呂Gu 第285回 2021.12/28

帚木30:(源氏の言葉続き)本の品高く生まれながら、身は沈み位短くて人嘆き、また、なほ人の上達部(かんだちめ)などまで登り、我はがほにて家のうちを飾り、人に劣らじと思へる、そのけぢめをばいかが分くべき」と問ひ給ふ程に、左の馬の頭、藤式部の(じょう)、御ものいみにこもらむとて参れり。

たとえば、もともと上流の家の生まれだけれど、零落してしまって今では低い位に甘んじて貧乏だ、という家の娘などはどうだろう。反対に、もともとはたいしたことのないそこらの家だったのが、たまさかに出世して今では三位以上の位に昇り、人並みに上達部などと呼ばれている家柄もある。そういう成り上がりの連中は、得意満面で家のうちを飾り立てて、”どうだ俺の家はおさおさ人に劣るまい”と思いあがっている、これらは上中下のどこに分類すべきかね」と源氏はなかなか答え難いところを突いた。中将が答えに窮していると、そこへ折よく左馬頭と藤式部丞の二人が”長雨の物忌みに籠りましょう”と言って現れた。

N君:貴族aristocrat のうち、昇殿を許可されない下級の者を地下(じげ)、五位以上で昇殿OKの中級の者を殿上人、三位以上の大臣・大納言・中納言・参議のような上級の者を上達部、と呼んでいるそうです。これにはもちろん例外もあって、令外官(りょうげのかん)である蔵人頭(くろうどのとう)は六位ですが殿上人同様に昇殿OKでした。令外官とは、律令の令制度に記載のない官職で、平安時代のはじめに桓武天皇が、蔵人頭検非違使勘解由使などを置いたのは有名で、山川出版社の詳説日本史で見たことがあります。使い勝手が良いように少しずつ柔軟に官制を変化させたのでしょう。次に丞について調べました。役人は各組織のなかで偉いほうから順に、長官(かみ)・次官(すけ)・判官(じょう)・主典(さかん) という具合に四等官制が敷かれ、その組織が中央政府の省庁ならば卿・輔・丞・録、九州太宰府ならば帥・弐・監・典、地方の国ならば守・介・掾・目、地方の郡ならば大領・小領・主政・主張 と呼ばれていました。したがって藤式部丞というのは「中央政府式部省のナンバースリーの藤さん」という意味になります。このような肩書名を知っておくことは結構役に立ちます。たとえば百人一首No.29「心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花」の凡河内躬恒(おほしこうちのみつね)は淡路国掾、No.46「由良のとを渡る舟人かぢをたえ行くへも知らぬ恋の道かな」の曾根好忠は丹後国掾でした。地方国のナンバースリーだったんだな、五位より下だろうから昇殿はしなかっただろうな、などと想像できます。江戸時代ころには呼び名も形骸化したでしょうがそれでも「吉良上野介(きらこうずけのすけ)」と聞けば「上野国(群馬県)ナンバーツーの吉良さん」という意味なので、副知事クラスか、と想像がつきます。

For example, how do you think about the case of a girl who was once bone in a good family but is now in a reduced circumstance with poverty and a lowly rank ?  On the other hand, there are some clans which had originally belonged to a lower class but have recently gotten an incidental chance of promotion.  Now, some of them end up climbing into the third aristocratic grade or more, and enjoy the honor of being called 'Kandachime'.  Such fellows, so called upstarts, are exultantly eager to decorate the interior of their houses and keep the feeling in mind that the grade of their houses are far superior to that of anyone else's.  Which do you think I should categorize this case into ?  High, middle or low ?"  Genji struck the General at his vulnerable point.  When the General was just in trouble over a relevant answer, Samanokami and Toshikibu fortunately dropped in on Genji in order to chat with him during the ritual abstinence in this rainy season.

S先生:全般的に文章が硬くて説明的過ぎます。もうすこし柔らかく簡潔に書きましょう。第1文の how do you think about ~ ? は日本人がよくやる間違いで、この how は what でなければなりません。think は他動詞で目的語を取るから疑問詞は how ではなくて what だ、という理屈です。例文としては What do you think about what he said ? があります。how節全体が名詞節として他動詞の目的語になることはありうるので、Do you know how he succeeded ?  はOKです。なんだかややこしいですが、よく考えてみて下さい。同じく第1文の in a reduced circumstance with poverty and a lowly rank という表現は回りくどくて意味を取りにくいので、poverty-stricken in a lowly rank くらいに変えてみてはどうでしょうか。第2文の which は、そう硬く考えずに「人にまつわる先行詞」ということで、who を使って構いません。第3文の end up climbing into は少し気になります。end up ではなくて end in を使うところなのですが一般に end in は His project ended in failure. のように好ましくない結末を述べることが多いので、やはりふさわしくありません。ここは casually climb to くらいにしておきましょう。ところで casual というと「形式ばらずに打ち解けた」の意とN君は思っているかもしれませんが実は違います。たしかにそういう意味もありますが、主には「偶然の、たまたまの、思い付きの、でまかせの、うわべだけの」のような、どちらかというと negative な意味の単語なのです。だから「たまたま出世した」のような悪意のこもった言い方にマッチす るのです。第4文は the feeling と同格の that節を使いましたね、これで良いと思います。第5文の Which do you think I should categorize this case into ?  という挿入句入りの疑問文はよく書けました。もともと Which should I categorize this case into ? という普通の疑問文があるところに、do you think が割り込んで入って来たので should がもとの位置に戻ったと考えておきましょう。第8文の was just in trouble over a relevant answer は、気持ちは分かるが持って回った感じがあるので、もっと簡潔に did not know what to answer くらいにまとめてはいかがでしょうか。

There might be well-born ladies who have been reduced to poverty, or those who were from a lower class but have happened to rise to a high rank called 'Kandachime.'  Those upstarts are proud that their houses are beautifully decorated and take a conceited attitude that they are much better than anyone else's.  Which class do you think they belong to : high, middle or low ?"  Genji hit Chujo's weak point.   When Chujo was at a loss what to answer, Sama-no-Kami and Toshikibu-no-Jo appeared on the scene to stay indoors together with them so as to purify themselves during the ominous season of a long rain.

第1文ですがこのままでは「娘が上達部になる」という意なので実際とは異なります。娘の父親が上達部になるのですから、those who were from a lower class but have happened to rise to a high rank called Kandachime のところの but を除外して whose fathers を入れてやると、those who were from a lower class whose fathers have happened to rise to a high rank called Kandachime となってこれは「関係代名詞の二重限定」という構文になります。これはあまりお目にかかりませんが実在する構文で、たとえば福沢諭吉文明論之概略」英訳本には、There are many things which are most useful in our modern world which would have been useless in earlier ages. という文章が出ていました。二重限定の特殊な形として「最初の関係代名詞節が省略された形」がありうるので例文を示しておきます。She is the only woman I ever saw that I would marry.「いままで会った中で、どうしても結婚したいと思った唯一人の女性」。

N君:単語をチェックしておきます。upstart「成り上がり者」、conceit「うぬぼれ」≒ vanity でした。casual については a casual discovery「偶然の発見」・casual comments「でまかせの批評」を覚えておきたいです。今回は、挿入句のある疑問文、関係代名詞の二重限定、など盛りだくさんでした。